陶磁器を一言でいえば、原料である土や石を成型して焼いたものとまとめられます。具体的には自然採取される粘土や市販の粘土、もしくは陶石(とうせき)と呼ばれる石を砕いた原料で形を作ります。そして釉薬(ゆうやく)とよばれるガラス質の原料をかけて焼いた品々を陶磁器といいます。陶磁器:狭義での意味陶磁器という言葉は、狭義では「陶器と磁器」のことを指します。陶器であればやや厚手の湯呑みなどがあり、磁器は薄手で取...
一般的に陶磁器といえば、陶器と磁器の総称です。しかし実際に陶器と磁器を見てみると実にたくさんの違いがあります。そしてその特性の違いから、作り方、使い道、扱い方までもがそれぞれ異なってきます。陶器と磁器の違いについて掘り下げて比較してみたいと思います。違いその1.粘土の色が違う陶器も磁器もはじめは粘土から作られますね。どちらも粘りがあって乾燥させると固まりますがそれぞれ粘土の色、すなわち原材料が違い...
ボーンチャイナとは磁器の仲間で、原料の粘土に牛の骨を焼いた骨灰(こつばい)が30%~60%含まれています。18世紀末にイギリスで生まれたボーンチャイナは、はじめ中国や日本の白磁を目標にして作られました。白磁がもてはやされた背景には、シノワズリ(仏: chinoiserie)という中国趣味の流行がありました。ヨーロッパにおけるシノワズリの隆盛は17~18世紀であり、18世紀半ばには日本趣味であるジャ...
陶器と磁器ではどちらが保温性に優れているのでしょうか?これは実際に同じ厚みの陶器と磁器にお湯を注ぐと分かります。陶器はゆっくり温まるのに対して、磁器は速やかにうつわが熱くなります。そして10分ほど置いたあとに熱湯を捨てると、陶器の方がより長い時間あたたかい状態を保ちます。つまり同じ温度をキープする=保温するという点では陶器が優れています。陶器:温まりにくく冷めにくい=保温性が高い磁器:温まりやすく...
陶磁器の各部には人と共通する名称があります。たとえば縁(ふち)の部分を「口」、うつわのおよそ下の方を指して「腰」と呼んだりします。これは美術館や販売店などで、陶芸作品の話をする時によく出てきます。あとは作品の表面を「肌」ということもありますね。また、私は陶芸をやっているのですが、陶芸仲間と話すときにこんな会話をすることがあります。「次はもっと(壺の)首を絞めなきゃダメだね」とか「(自作した茶碗の)...
一般的な工程は素地をよく揉んでから成形、素焼き、施釉、本焼きの順で行われます。時系列でそれぞれ説明させていただきます。 荒練りと菊練り成形前に素地を揉む工程です。荒練りの目的は粘土全体の水分量と硬さを均一にすることです。粘土全体の水分量が均一にならないと、形を作るさいに障害となります。たとえば土の一部が柔らかいのに対し、別の部分が硬くヒビ割れなどが起きてうまく成型できなくなります。特にロクロで水曳...
陶磁器に使われる粘土は主に花崗岩(かこうがん)から作られます。花崗岩という岩石が粘土になるまでは膨大な時間を要します。花崗岩は長い年月をかけて風化して朽ち果て、風雨にさらされて細かい粒子が少しづつ地表に堆積します。やがて地面の土や枯葉などの有機物と混じりあって粘土になっていきます。花崗岩とは火山の噴火によってできる火成岩の一種です。火成岩には大気や水によって急速に固まる火山岩と、地中で自然にゆっく...
陶磁器に使われる粘土は不純物(有機物)を含むものと、ほとんど含まないものに分かれます。有機物は木片や落ち葉などを指します。それぞれ不純物が少ない粘土を一次粘土、不純物を含む粘土を二次粘土とよびます。粘土は一次粘土か二次粘土に大別されますが、この不純物の多寡はどんな要因で決まるのでしょうか?それは粘土の原料がその場所に留まるか移動してしまうかでおおかた決まります。一般的に岩石が風化するとそこに含まれ...
日本には陶磁器の名産地がいくつも存在します。その耐火粘土は良質であるだけでなく、膨大な採掘量を誇っています。こうした窯業地にはたくさんの粘土が集まる条件があるのでしょうか? 粘土の堆積粘土は花崗岩など岩石が風化した物質から作られます(参考記事 : 粘土はどうやってできるのか)。風化した物質ははじめ地表に積もりますがその量は微々たるものです。この微量な物質が一か所に大量に集まる条件が自然の中にありま...
釉薬とは陶磁器の表面に付着したガラスの層のことです。釉薬のことを単に「うわぐすり」ともいいます。材料は種類によって異なりますが、代表的なものに灰釉(はいゆう・かいゆう)があります。これは草木の灰と、長石などの砕いた土石類を水で熔いたものです。液体であるものを湿式とよび、粉状のものを乾式の釉薬といいます。釉薬は素焼きの後に施釉(せゆう:釉薬を塗ること)します。本焼きをすると釉薬が高温で熔けて、陶磁器...
総釉について総釉(そうぐすり)とは作品全体に釉薬がかけてあることをいいます。「総」は総力・総合などの例から「全て・全体に」という意味で、釉薬のことを「うわぐすり」ともいいますね。こうした総釉の作品は、高台内まで施釉してあるものを指します。総釉の一例。高台回り・内側にも施釉されている。畳付きは一部土がのぞいているところも総釉は陶磁器の土を見せないことを目的としています。たとえば古代中国に起源をもつ総...
下絵付と上絵付下絵(したえ)とは釉薬の下に絵を描いて「高火度」で焼く事をいいます。たとえば下の画像では藍色の呉須で下絵が描いてあります。うつわを見ると白い素地と藍色の下絵、赤絵と金彩(上絵)という構図です。実際には素焼き(600℃~800℃)したうつわに呉須で絵を描き、透明の釉薬をかけて高火度(1,200℃~1,300℃)で本焼きします。酸化コバルト等を含む呉須は1,200℃くらいの高火度にも耐え...
貫入の美しさ陶磁器における貫入とは釉薬の表面にできたひびの事です。ガラス質の釉に入った貫入は、光を受けて私たちに多様な表情を見せてくれます。日本や中国では古来より鑑賞上の見どころのひとつとなっています。その形状によって「氷裂文」「柳葉文」「牛毛文」など数多の呼び名がついています。また意図的に貫入を際立たせるため、窯出し直後にベンガラや墨などを塗り込む作品もあるほどです。ちなみに貫入が入るよう意図し...
陶磁器の「景色」について陶磁器は成形した粘土が窯の炎に焼かれることで生まれます。やきものという言葉は炎に焼かれた産物という意味にほかなりません。そして焼成の結果、釉薬・胎土が炎によって変化したさまを景色と呼びます。たとえば高温で熔けた釉薬が器面を流れるとします。その流れる様子を「景色」といいます。または作品に炎が当たってコゲが出来たとしましょう。そのくすんだ状態・場所を指して「景色」とよびます。い...
なぜ不完全なものに魅力を感じるのか陶芸作品を眺めていると、均衡の取れていない作品に親しみを覚えることがあります。たとえば志野や織部の造形に見られるような歪み(形)、唐津焼の奔放な鉄絵のモチーフ(色・形)、備前焼の表面に降りかかった不均一な灰の様子や窯変(色)など。志野茶碗。銘:振袖(桃山時代)画像提供:東京国立博物館:東京国立博物館ホームページこのような不完全な形状や意匠、微細な表情に惹かれるのは...
窯変について窯変(ようへん)とは窯の内部で作品に生じた色の変化のことです。窯の炎による現象であることから、「火変わり」とも呼ばれます。その色の重なりは時に模様を形成し、陶磁器の色彩をより深く、味わいのあるものにしています。ちなみに、窯変はaccidental coloring(偶然生じた色彩)と英訳されることもあります。陶磁器を焼くときに作品を窯に入れるわけですが、高温で焼成すると窯内部の化学物質...
炎の状態焼成中の炎には様々な変化が起こります。その状態によってそれぞれ酸化炎・中性炎・還元炎に大別されます。この炎の性質によって胎土の焼き色や釉薬の発色が変わってきます。なお、電気窯だけは基本的に酸化焼成しかできません。これらの状態を例える上で、ロウソクの炎が分かりやすいと思います。ロウソクの中心は青く暗い炎で、中性・酸化状態に向かって色が明るくなります。酸化炎は外側の空気に触れるため酸素が十分あ...
昇炎式の窯と倒炎式の窯(火の動く方向による分類)焼成中の窯の中では勢いよく炎が燃えさかっています。熱によって上昇気流が発生し、その炎は窯の構造によって動きが変わってきます。火元から煙突へ出ていくまでの動きによって昇炎式・倒炎式と大別することができます。それぞれ図示するとこのようになります。昇炎式は下から上に炎が昇っていったあと煙突から出ていきます。それに対して倒炎式は、出口(煙突)がないため天井に...
窯道具について窯道具とは作品を窯で焼くときに使う道具の総称です。作品と関連性が高いため解説に出てくることもあります。たとえば美術館の説明文に「サヤに入れて焼かれた~」「高台内には輪トチンの跡がついて~」とあった場合、窯道具が分かるとよりイメージがしやすくなります。また、実際に作品をみると目跡(めあと)のように、窯道具と作品の間にかませた粘土の跡を見ることもあります。このように作品鑑賞はもちろん、こ...
日本最古の歴史を持つ窯日本で初めて窯が登場したのは古墳時代。須恵器を焼くための穴窯がはじまりです。従来の土器は手びねり(ロクロを使わない)成形した土を野焼きしていたのに対し、須恵器は「ロクロ」を使って成形したものを窯で焼く最先端のやきものでした。具体的には足で回し両手が自由になる蹴ロクロと、地中に傾斜のある穴を掘った穴窯です。これらは中国大陸および朝鮮半島から伝播したといわれます。 穴窯(窖窯) ...
大窯 15世紀末~現代:横炎式(半倒炎式)大窯は室町時代から安土桃山時代に主流な窯として使われます。古墳時代から続く穴窯と、江戸時代に導入される登窯の中間にあたる半地上式の単室窯です。現代でも一部で大窯が使われています。従来の穴窯は地中にあったものが多く、一部の半地上式穴窯が進化したものが大窯といえます。その特徴は燃料(薪)を焚く燃焼室にたくさんの分煙柱をたてた事です。焚口から炎の熱は分煙柱(大)...
登窯 16世紀後半~現代:横炎式(半倒炎式)登窯(のぼりがま)は中国・朝鮮半島を経て、16世紀後半に唐津で導入されました。江戸時代はじめには唐津から美濃(現:岐阜県土岐市など)をはじめ全国に普及していきます。現在でも薪窯の味わいを求めて、登窯を使用する作家・窯元が各地にいます。従来の穴窯や大窯が単室だったのに対して、登窯は複数の焼成室がありました。上からみた焼成室は房(ふさ)の形をしているため連房...
蛇窯(鉄砲窯・龍窯)15世紀ごろ~現代:横炎式(半倒炎式)蛇窯は登窯の一種で細長く伸びた単室の窯のことです。上からみると竹を置いたように長方形で「割竹式(わりたけしき)」とも称されます。複数の焼成室を持つ割竹式登窯と混同されることもありますが、基本的に単室のものが蛇窯といわれます。ちなみに蛇窯は鉄砲を横たえたようなので「鉄砲窯」と、中国や台湾では龍の姿をなぞらえ「龍窯」と呼ばれています。以下の図は...
角窯(石炭窯)明治時代~現代:倒炎式角窯(かくがま)は明治時代に作られた長方体の窯です。そのはじまりは明治初期にワグネル(ドイツの化学者。1831年~1892年)が築いた石炭窯を元に各地で開発されました。江戸時代は連房式の登窯が主流でしたが薪はコストがかかります。すなわち木を切って薪を割り、何か月も乾燥・保存する手間がかかります。いっぽう石炭は少量でも燃焼性に優れ、採掘してから燃料になるまで薪より...
徳利窯 18世紀~1960年代:昇炎式徳利窯(とっくりがま)は18世紀にイギリスで生まれた昇炎式の窯です。中心に円筒型の焼成室を持ち、外側は徳利の形をした外壁でおおわれています。日本には19世紀末ごろから導入され、焼き締めのレンガやセメントを焼く窯として稼動してきました。イギリスではその形からボトルオープン窯とも呼ばれ、日本では外套(がいとう:コートの事)をかぶったような形状から外套窯とも呼ばれま...
上絵窯 江戸時代前半~現代:昇炎式上絵窯(うわえがま)とは文字通り上絵を焼きつけるための窯です。上絵とは釉薬をかけて本焼き(1,200℃~1,300℃)した上に絵付けをすることです。そして上絵窯の中で低火度(600℃~800℃)で焼成します。初期の上絵は「赤」を主体とした色絵具だった名残から「赤絵」といいます。その後、色絵具は赤・青・緑・紫・黄色を色彩を増やし、錦のような色合いから「錦手(にしきで...
楽窯 安土桃山時代~現代:昇炎式楽窯(らくがま)は桃山時代以降に作られた単室窯です。焼成スペースが狭く一品ものの楽を焼くための窯です。楽は千利休の監修のもと、瓦師の長次郎(ちょうじろう:生没年不詳)によって焼かれた茶の湯の陶器です。長次郎(朝次郎との表記もある)を初代とする楽家は、現代まで400年以上も楽茶碗を焼き続けて15代を数えます。茶道界で楽を知らない人はまずいないでしょう。楽家六代の左入(...
磚窯(せんがま)古代中国~現代:半倒炎式磚(せん)とは中国で作られる石を主原料にした黒色レンガのことです。磚が使われている世界的に有名な建造物といえば万里の長城(ばんりのちょうじょう)が挙げられます。長城をはじめ多くの東洋建築で磚が使われました。その形から饅頭窯(まんじゅうがま)と呼ばれることもあります。磚の特徴は強還元炎で焼かれたその黒色にあります。強還元状態にするための仕組みは窯の上部にあるく...
シャトル窯(台車窯) 現代:倒炎式ほかシャトル窯は移動式の台車を備えています。燃料はガスや灯油・重油を使うもののほか電気窯もあります。最大の特徴はその台車のおかげで窯詰が簡単にできる点にあります。従来の穴窯や登窯は内部に棚板を設置してその中で窯詰め作業を行います。傾斜があるため棚を平行に配置するには、坂の途中に段差を設けて水平な地面を確保しなければなりません。そのため平行な地面はできても作品の設置...
トンネル窯:現代トンネル窯は1920年ごろから日本で導入された窯です。現在はローラーハース窯によって代替され、やや減少傾向にありますが詳細は後述します。トンネル窯は生産性に優れた構造で大量生産を可能にしました。製品は台車に積まれて窯へと移動します。そして入口から出口までの間に「予熱」「焼成」「冷却」工程を一括管理できる構造になっています。燃料はガスが用いられます。バーナーで一方向から熱風を吹き出し...
七輪陶芸の窯 現代:昇炎式七輪陶芸(しちりんとうげい)では家庭用の七輪を使って陶磁器を焼成します。調理器具に使われる七輪はDIYセンターをはじめどこでも手に入り安価です。電気窯・ガス窯や薪窯と比較して、七輪はその手軽さから一般的に普及しつつあるといえます。利点としては設置スペースを取らない:持ち運びも可能煙がほとんど出ない:炭による焼成燃料費が安価:市販の備長炭や黒炭でよいメンテナンスが容易:七輪...
巨匠の略歴現代巨匠の略歴には公募展の受賞歴をはじめ実にさまざまな経歴が書いてあります。「おすすめの現代巨匠は?」とよく聞かれるのですが、好き嫌いはさておき略歴はいろいろなことを教えてくれます。中でもよく目にするのが「人間国宝」、もしくは「文化勲章」「紫綬褒章(しじゅほうしょう)」といった受章歴です。私は「鉄絵」の人間国宝である田村耕一(たむら こういち 1918年~1987年)の作品がきっかけで陶...
陶磁器と直接関係はありませんが、茶碗に欠かせない抹茶について取り上げたいと思います。抹茶は日本でも馴染みのあるものですが中国で生まれました。伝世する書物や言い伝えに基づき、茶葉の発見から抹茶の誕生までをまとめます。 お茶の起源時代文献概要紀元前2,700年ごろ現存せず神農(しんのう)という農業と医療の神が、薬としての茶をはじめて見つけたといわれています。後述する茶経には神農食経という書物を著したと...
抹茶は私たち日本人にとって馴染み深いものです。たとえば飲料やデザートなど、抹茶はとても身近な存在といえるでしょう。さて抹茶のはじまりをみると、中国において宋の時代(960年~1279年)に広く普及しました。そして12世紀の日本(平安末期~鎌倉時代)に日本に伝わり定着していきます。 抹茶伝来までの茶日本では遣唐使によってはじめて茶の種が持ち帰られたといわれています。遣唐使は630年から894年まで続...