陶器の保温性がよい理由
陶器と磁器ではどちらが保温性に優れているのでしょうか?これは実際に同じ厚みの陶器と磁器にお湯を注ぐと分かります。
陶器はゆっくり温まるのに対して、磁器は速やかにうつわが熱くなります。そして10分ほど置いたあとに熱湯を捨てると、陶器の方がより長い時間あたたかい状態を保ちます。
つまり同じ温度をキープする=保温するという点では陶器が優れています。
- 陶器:温まりにくく冷めにくい=保温性が高い
- 磁器:温まりやすく冷めやすい=保温性が低い
陶器と磁器の保温性の違いは、素地の緻密性によるものです。緻密性とは素地内部のちいさな隙間(空気)が多いか少ないかの度合いのことです。
すなわち陶器は焼き締まりが弱く(緻密性が低い)目に見えない小さな空気が内部にたくさんあります。その一方で磁器は焼き締まりが強く(緻密性が高い)ガラス化が進むため内部に空気がほとんどない状態です。
よく「陶器は多孔質である」というフレーズを聞きますが、これは緻密性が低いため、内部には隙間や空気の粒が多いともいえます。この隙間にある空気によって保温性に違いが出てきます。
温度を保つ空気の働き
こうした空気のおかげで陶器は保温性に優れています。なぜならば陶器内部の空気が断熱材の働きをするからです。空気は温まるとその熱を保つ性質があります。ただし空気が動くと熱が下がりますので、陶器の中にある「閉じ込められた」空気の粒が保温力を高めてくれるのです。
これは身近な例だと分かりやすいのですが、羽毛布団やダウンジャケットは内部にある空気の層が熱をキープします。素地の中にある「閉じ込められた」空気たちが暖かい状態を保ってくれます。
あるいはスキー場など寒冷地の窓ガラスも分かりやすい一例です。1枚のガラスではなく2枚のガラスが重なっているケースです。窓を閉めると外側のガラスと内側のガラスの間に「閉じ込められた」空気の層ができます。この層がクッションになるため、外気の寒さが直接伝わるのを和らげてくれます。
このように陶器内部にある隙間と空気が、温まった熱を内部に閉じ込めて保温するのです。
保温性が高いメリット
陶器の保温性がよい=「熱をより長く保つ」という事は、逆にいえば温まりにくいともいえます。つまり陶器は温まるまで時間を要するが、その後は冷めにくいということです。
こうした利点は抹茶椀や土鍋などで活かされています。
想像してみてください。たとえば抹茶椀は直接手に取りますね。熱い茶を点てて手に取った時、ゆっくりと熱が伝わるため心地よい温かさでいただけます。
これは黒樂茶碗の画像です。ほんのり湯気が立つくらいの熱さでも茶碗は問題なく手で持てます。じんわり温かい程度でちょうどいい温度です。
しかし、仮にこれがガラスの茶碗であればどうでしょうか?ガラスは熱を通しやすいので熱湯を注げばばすぐさま「熱っ!!」となって持っていられませんよね。
茶碗で樂茶碗や萩、唐津などの陶器が使われるのは、こうした利点(=ゆっくり温まり冷めにくい特性)のためです。
また、土鍋で煮込んだ料理はなかなか冷めません。そして火を止めても加熱作用が続くのが土鍋の利点です。いったん加熱されれば食材にじっくりと火が通り、空気の層のおかげで熱を外に逃がしにくくなるわけです。鍋料理を食べている間に短時間で冷めてしまっては困りますね。
一方鉄やステンレスの鍋だと加熱は早いのですが、冷めるのも早くなります。これらは熱伝導はよくても保温性に欠けるといえます。
以上、陶器の保温性がよいのは閉じ込められた空気の断熱作用のおかげという事がわかりました。多孔質で保温性に優れた陶器は、その用途に応じて使い分けられています。