陶器と磁器の違い
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陶器と磁器の違い

一般的に陶磁器といえば、陶器と磁器の総称です。しかし実際に陶器と磁器を見てみると実にたくさんの違いがあります。そしてその特性の違いから、作り方、使い道、扱い方までもがそれぞれ異なってきます。

 

陶器と磁器の違いについて掘り下げて比較してみたいと思います。

違いその1.粘土の色が違う

陶器も磁器もはじめは粘土から作られますね。どちらも粘りがあって乾燥させると固まりますがそれぞれ粘土の色、すなわち原材料が違います

 

陶器につかう粘土は陶土といい、有色のものが多いです。たとえば唐津焼の粘土であれば鉄分を含む赤土や褐色の土。萩焼でつかう大道土であればベージュだったり、画像のような黄土もあります。信楽の粘土は灰色のものもよく目にします。

陶土(大道土の黄土)

陶土はさまざまな有機物を含む「土」ゆえに有色なんですね。微量な鉄分や炭化した植物の根や木片など、いろんな不純物ありきの色なのです。こうした土由来の粘土から作られるので、陶器は「土もの」(=土由来の粘土で作られたもの)といえます。

 

一方、磁器でつかう粘土は磁土とか磁器土と呼ばれ、有機物をほとんど含まない白色のものが多いです。たとえば有田や天草の磁器土は白色ですし、陶石や石英を主体とする磁器土であればほぼ純白です。画像を見ても石が細かくなった粉っぽさがわかると思います。

陶石-磁器土

磁器でつかう粘土は陶石やカオリンから出来ていますので、陶器の土ものに対し、磁器は「石もの」(=石由来の粘土で作ったもの)といえます。

 

このように陶器・磁器それぞれ原材料の違いから粘土の色が異なり、それぞれ明確に区別することができます。

2.作品の作り方が違う

それぞれ陶土も磁器土も基本的に粘土(質)、長石(ちょうせき)、珪石(けいせき)が含まれています。陶土と磁器土はその割合が以下のように異なります。

  • 粘土質:この比率が高いとよく粘り柔らかい土になる。比率が低いと硬めでコシの強い土になる
  • 長石:粘土素地の隙間をつなぎ、高温で熔けてガラス質になる
  • 珪石:ガラス質になる主成分。比率が高いと硬度が得られる

陶土と磁器土では、粘土質・長石・珪石の割合が違います

種類 粘土質(成形) 珪石(ガラス) 長石(媒熔剤+ガラス)
陶土 50%(土由来) 30% 20%
磁器土 30%(石由来) 40% 30%

粘土質は形の作りやすさに関係してきます。たとえば粘土をいったん曲げれば、粘土はそのままの形に留まりますよね。この「柔らかい + その形を保つ」ことを可塑性(かそせい)があると表現します。

 

一般的に陶土は可塑性が高く、磁器土は可塑性が低いです。つまり陶土は柔らかく、磁器土はやや硬いとイメージしてください。粘土の使い勝手が異なるため作り方もそれぞれ違います

 

たとえば同じ形の茶碗を作るとしましょう。朝顔みたいに水平に開いた形を想像してみてください。

 

私の場合、陶土であればやや厚めに作って乾燥後に多めに削ります。あまり薄く作ると重さで口縁部の土がヘタって下に垂れてしまうこともあるからです。

 

一方、磁器土はコシがあるので薄めに作って乾燥後の削りは少ないです。薄く作っても土が垂れないですし、逆に厚手で作ると削りに時間がかかって面倒です。

 

このように陶器と磁器は、粘土の扱いやすさに違いがあるため作り方・注意点も変わってくるのです。

3.釉薬と焼成温度が違う

陶器も磁器も釉薬をかけて焼きますよね。ですが粘土の耐火度がそれぞれ異なるので、釉薬も変える必要があります

 

陶土は一般的に1,000~1,200℃で焼成されます。一方、磁器土は陶土より高めで、一般的に1,200~1,300℃で焼成します。上の図で陶土と磁器土の成分比率を挙げましたが、磁器土の方がガラスになる成分が多かったですね。

 

ガラス質になる成分が多いという事は、より高温で時間をかけて焼かないとしっかり焼きしまらないのです。したがって磁器土の方が焼成温度と時間が長く、最終的にかかる熱量がおおくなります。

 

このように熱量の違う粘土それぞれに、全く同じ釉薬を使うとどうなるでしょうか。たとえば1,100℃で熔ける釉薬を、それぞれ陶土と磁器土に施釉したとします。

 

陶土の方は適正に釉がとけて良いのですが、磁器土の方はMAX1,300℃になりますから釉薬が熔けすぎてしまいますね。ドロドロに熔けた釉が垂れて作品が窯の底に引っ付いてしまったり、色釉の発色がうまくいかずに透明になってしまったり様々な不具合が生じてしまいます。

 

そうしたことを防ぐために、陶土・磁器土それぞれにあった釉薬を使い分けるわけです。

 

仮に耐火度が1,100℃ある陶土であれば、1,050℃で8時間後に熔ける釉薬を使います。磁器よりも低い温度で設定するわけですから溶けやすくなる成分(たとえば灰)の割合を増やした釉薬にします。

 

それに対し、耐火度が1,300℃ある磁器土であれば、1,250℃で12時間後に熔ける釉薬を使います。溶けにくくする成分(たとえばカオリン等)の割合を増やした釉を用います。

 

ちなみに耐火性の強い釉薬を「強釉」、耐火性の弱い釉薬を「弱釉」といいます。このように粘土の耐火性の違いから強釉・弱釉をそれぞれ使い分け、焼成温度を変える工夫が必要です。

4.質感が違う

陶器と磁器はそれぞれ触った感触が異なります。実際にどちらも釉薬がかかっていますから、素地の感触は釉薬がかかっていない部分、たとえば高台の畳付(たたみつき:接地部分のこと)が分かりやすいですね。

 

陶器の表面は多孔質でザラザラした感触です。多孔質とは目に見えないほどの小さな孔(あな)が至るところにある状態です。こうした状態だと手で触った時に小さな凹凸によってザラついた感触になります。

 

一方、磁器の表面は素地が緻密でツルツルした感触です。陶器のような多孔質な状態とは異なり、磁器土は焼き締まると粘土の隙間がなくなってガラスのようなスベスベした感触が得られます。

 

このように陶器と磁器の表面はそれぞれ感触が異なるため、作品自体の質感も違ってきます。

 

たとえば陶器のザラザラした感触と茶褐色の素地をみると、私は暖炉などで用いるレンガを連想します。部位によって手触りが違って温かみのある暖色系の色です。

陶器の感触について

表面をみると素地が削られて毛が逆立っているような様子が見てとれると思います。実際に目を閉じながら触るとザラザラした感触がよくわかります。

 

それに対して、磁器のなめらかな感触と純白の素地は浴室などにある白色タイルを連想します。全体的にスベスベした手触りで、涼しさや軽やかさを感じる色合いだと思います。

磁器の感触について

削った跡もなめらかで影と影の境目もツルツルした様子が見てとれます。陶器の荒々しい表面とは対照的で、まるで彫刻のような印象すらうけますね。

 

また、質感に関しておおきな違いを述べるとすれば透光性と硬度です。透光性とは光を通す性質のことですが、陶器には透光性がなく、磁器には透光性があります。これは実際に陽にかざすとよくわかります。

 

陶器は素地が多孔質で緻密性がないため光を通しません。これは岩石をイメージしてもらうと分かりやすいです。

陶器には透光性がない

たとえ薄かったにせよ岩石を陽にかざしても光は通しませんよね。陶器はこんな風に光を完全にシャットアウトします。

 

それに対して磁器は素地がより緻密なので光を通します。これはガラスをイメージしていただくと分かりやすいと思います。

磁器には透光性がある

もちろん透明なガラスほど光を通しませんが、磁器はこんな風に指の影がはっきり分かります。つまりちょっと透けている=光を通しているということになります。

 

さて、硬度は実際的な強度をあらわします。陶器を爪ではじくと「コツコツ」といった鈍い音がします。磁器ほど焼き締まっていないので、陶器自体の硬さは磁器に及びません。陶器が割れる場合は、鈍い音と共にうつわ全体に大きな亀裂が入る場合がよくあります。

 

磁器を爪ではじくと陶器より高めの「ピンピン」という音がします。陶器より焼き締まっているので硬度があります。磁器が破損する場合はガラスが割れるような高めの音で小さなヒビが細かく入るケースが多いです。

 

こうした視覚・聴覚・触覚的な違いから、陶器と磁器はそれぞれ質感が異なるといえるでしょう。

5.熱伝導率の違い

陶器と磁器は熱伝導率(熱の伝わりやすさ)が違います。先ほど陶器は多孔質であると述べました。

 

陶器には目に見えないほどの細かい孔や隙間がたくさんあります。この隙間は素地の中にも無数に存在します。これは素地の中に閉じ込められた空気とも言い換えられますね。

 

陶器の中に閉じ込められた空気が断熱材の働きをするため、熱を通しにくく保温性が高いわけです。身の回りでいえばダウンジャケットがそうですよね。暖まるまでちょっと時間を要しますが、一度温まれば閉じ込められた空気のおかげで温かさを保つことができるのです。

 

閉じ込められた空気がたくさんある。すなわち陶器は熱伝導率が低い=熱が伝わりにくいといえます。

 

それとは逆に、磁器はガラス質が多いので、熱が伝わりやすく冷めやすい特性があります。ガラス質で緻密な素地であれば、素地の中に空気の入り込む余地はほぼ無いわけです。磁器の内部には断熱材である空気がほぼありません。つまり磁器は熱伝導率が高い=熱が伝わりやすいということを意味します。

 

これは実際に曇った状態のプラスチックのコップと、透明のガラスのコップに温かいお湯を注いでみるとよくわかります。それぞれを陶器と磁器に当てはめて考えてみましょう。

 

・曇ったプラスチック製のコップ≒陶器:熱が移動しにくい

・透明のガラス製のコップ≒磁器:熱が移動しやすい

 

プラスチックには目に見えないほどの気泡がたくさん閉じ込められています。気泡は光や熱を遮ぎるので曇って見えますね。これを陶器に例えます。

 

一方、ガラスのコップは気泡がほぼ無いので光や熱を通します。そして透明なので向こう側が透けて見えます。これは磁器に例えられます。

 

さて両者にお湯を注ぐとどうなるでしょうか?プラスチック(≒陶器)は熱を通しにくいものの、いったん温まると冷めにくいです。ガラス(≒磁器)はすぐ温まりますが、外気によって冷めやすいことが分かります。

 

上記のことから陶器は「徐々に温まって冷めにくい」。それに対して磁器は「熱しやすく冷めやすい」とまとめられます。熱伝導率の違いによってそれぞれ使い道も異なってきます。

 

6.用途の違い

前述のとおり陶器と磁器では熱の伝わり方が異なります。そこで陶器と磁器それぞれの使い分け、用途の違いについて実例を挙げてみたいと思います。

 

たとえば抹茶碗や湯呑であればどうでしょうか。陶器製の抹茶碗は徐々に温まって冷めやすい特徴があります。楽茶碗や萩の茶碗、唐津の茶碗などは陶器に分類されますね。

 

やや熱めの抹茶を点てた場合、陶器であればゆっくりと熱が伝わってきます。はじめ手に取った状態では器はほんのり温かい状態です。飲み終わる頃にも程よい熱を保っていると思います。

 

いっぽう磁器製の抹茶碗だと熱がすぐ伝わりますから手のひらで持つと「熱っ!!」ってなります。手で直接もつ器に熱い液体を入れるケースでは陶器のほうが扱いやすいと思います。

 

あと磁器であれば取手のついた器をよく目にしますね。たとえば磁器製のティーカップなどは見た目も涼やかで使い勝手もよいです。本体が熱々でも取手があれば問題ありません。そして白磁のカップはコーヒーや紅茶の色が引き立ちますし、薄造りの磁器は軽くて扱いやすいです。

 

次に調理器具の一例として土鍋が挙げられます。直火で加熱調理する器具ですが、外食をするさい陶器製のものをよく目にします。

 

弱火でじっくり加熱して沸騰しはじめた頃に火を止めますが、火を止めてすぐに冷めてしまったら都合が悪いですよね。火を止めても土鍋に蓄えられた余熱で食材をじんわりと過熱し続けることができるわけです。

 

こうした事例は陶器の特性(徐々に温まって冷めにくい=保温性が良い)をうまく活かしている一例だと思います。

 

これとは逆にサラダボウルのような冷菜を盛るうつわは磁器製のものをよく見かけます。食材の温度がすぐ伝わるので器を持つとひんやりしてていいですよね。

 

あとは暑い時期に食べる冷麺のつゆを入れる蕎麦ちょこなど。磁器製のものは見た目も涼やかで手に取った時の冷たい感触も良いですし、薄造りで器自体の軽さも使いやすいです。

 

このように陶器と磁器はその特性によって、身の回りでも用途が異なる例がたくさんあります。用途に応じてそれぞれの利点を活かした使い分けがなされています。

 

7.扱い方が違う

今まで述べたとおり、陶器と磁器は原材料の違いによって多くの違いがあると分かりました。そこで実際に使う際にも扱い方が変わってきます。

 

食器ひとつとっても陶器と磁器では扱い方が違います。陶器は素地が多孔質なので吸水性があります。無数の孔が水を吸収するという事は、陶器は汚れを吸いやすいとも言い換えられます。

 

これに対し、磁器は素地が緻密でほとんど吸水性がないため、汚れを吸収しにくい特徴があります。

 

したがって食器を使う場合でも、汚れにくくするための一工夫が必要です。陶器であれば使用前に十分に水に浸けておきます。こうすることで素地が水を吸収し、食材や調味料の汚れを吸いにくくなります。

 

私の場合、陶器製の向付や皿を使う前に30分~1時間ほど水に浸けておきます。水を吸わせた後に表面を布巾でぬぐってから食材を盛ります。食後はできるだけ速やかに中性洗剤とぬるま湯(油汚れを浮かせて落としやすくするため)で洗います。

 

一方、磁器であれば、表面の埃を洗い落とすくらいの水ですすいでからすぐに使います。磁器は吸水性がほとんどありませんが、0ではないので食後すぐに洗うのが望ましいのです。ただし陶器ほど気を使わなくても大丈夫です。

 

このように陶器と磁器では扱い方も変わってきます。陶器は使用前に水に浸け、できるだけ速やかに洗います。磁器は陶器ほどナーバスにならなくても問題ないと思います。この点では磁器製の方が扱いやすいといえますね。

まとめ

項目 陶器 磁器
粘土の色 有色(不純物多め) 白色(不純物少なめ)
作り方 厚手 薄手
釉薬と焼成温度 弱釉 温度は1,000~1,200℃ 強釉 温度は1,200~1,300℃
質感

多孔質でザラザラ

透光性なし

硬度:柔らかめ

打音:弾くと鈍い音(コツコツ)

緻密でスベスベ

透光性あり

硬度:硬め

打音:弾くと金属音(ピンピン)

熱伝導率 低い=熱が移動しにくい 高い=熱が移動しやすい
用途 熱が少しづつ伝わるもの(抹茶碗や土鍋など) 熱がすぐ伝わっても問題ないもの(取手付きのカップや冷製容器)
扱い方 吸水性があるため使用前に水に浸す。使用後は速やかに洗浄する 吸水性がほぼないので使用前は水で埃をすすぐ程度。陶器ほど速やかな洗浄は不要

 

陶器の雰囲気は磁器と比べてより温かみがあり柔和なものです。素地も多孔質でざらつく感触もあります。その一方で、磁器はより涼しげな印象と滑らかな器肌が特徴となります。

陶器と磁器

左側手前から粉引盃・緑釉湯呑み・小鹿田一輪挿し(全て陶器)。右側手前から青磁盃・白磁湯呑み・白磁一輪挿し(全て磁器)。陶器と磁器それぞれの違いが見てとれます。

 

陶器と磁器の大きな違いは元をたどれば原材料の違い(土由来か石由来か)です。そこから陶器・磁器の特徴が自ずと生まれてくるのです。

 

 

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