七輪陶芸の窯
七輪陶芸の窯 現代:昇炎式
七輪陶芸(しちりんとうげい)では家庭用の七輪を使って陶磁器を焼成します。調理器具に使われる七輪はDIYセンターをはじめどこでも手に入り安価です。
電気窯・ガス窯や薪窯と比較して、七輪はその手軽さから一般的に普及しつつあるといえます。
利点としては
- 設置スペースを取らない:持ち運びも可能
- 煙がほとんど出ない:炭による焼成
- 燃料費が安価:市販の備長炭や黒炭でよい
- メンテナンスが容易:七輪がダメになったら丸ごと交換
- 焼きの強弱を制御できる:送風機の強弱による
欠点としては
- 量産は不可:七輪のサイズによる
- 完成度にばらつきが出る:薪窯も同様か
- 短時間焼成なので焼きは甘くなる
七輪焼成は送風の加減で焼きをコントロールできるので、手順によって仕上りが全く変わってきます。つまり毎回同じような完成度が望めない(望みにくい)点では薪窯も同様といえます。
焼きの甘さは作品によっては利点にもなりますが、焼きしめたいならば別の窯(電気窯など)を用いて、長時間かけて素焼きすればこの問題はある程度解消できます。
窯は七輪をそのまま使い、不要な金具を外して穴を粘土でふさいでおきます。断熱材でフタを作れば炎が内部にとどまるので温度が上昇しやすくなります。
また、炭を入れて火をつけるだけでは焼きに偏りが出るため送風機を用意します。
送風機について
一般的にはドライヤーが使われています。ドライヤーの風力は十分ですが「風圧」が不足していると考えます。風の当たったところは一応燃えるのですが、風圧が足りないと炭全体が均等に燃えません。
たとえば風船を膨らませたいとしましょう。口をつけずにどれだけ強く吹いても風船は膨らみません。これは風力はあっても「圧」がないからです。圧力をかけるには口をつけて力強く吹けば風船が膨らみます。
これが風圧のかかった状態で、七輪窯におきかえれば、重なり合った炭の内部まで風が送られます。そして炭全体がきれいに燃えて十分な焼きが得られます。
ゆえに風力しかない場合、炭を完全燃焼させられない、飛ばした灰が作品にかかって汚れるという問題が出てきます。風「圧」はなくてもドライヤーは十分な風力があるからです。
では風圧を兼ね備えた送風機は何かというと鞴(ふいご)が適しています。鞴は刀鍛冶など製鉄現場で使われた送風機で、取手の押し引きで空気を圧縮して送出します。
今は見なくなりましたが、昔ながらの木製鞴が風圧・機能的に最適ではないでしょうか。風圧は申し分なく、ドライヤーと比べても灰の飛散が少なくなります。それでいて「風圧」によって空気が隅々まで行き届くわけです。
七輪焼成では鞴(ふいご)のほか、白炭・黒炭の選定、炭を均等な大きさにカットする炭切り、作品の色見など細かい手順があります。ここは窯の構造の話なので、手順については「陶芸の情報/作陶方法」のカテゴリーで順次紹介していきたいと思います。
簡単に済ませるならばまずは七輪本体と炭・ドライヤーだけで焼成可能です。すぐ用意ができる点と自分で風力が調節できる点、これが七輪窯の魅力です。
※炭の燃焼による火災・一酸化炭素中毒に十分ご注意ください。
炎の色で温度を判断するうえ、風量で酸化・中性・還元炎の状態と変わるので燃料と空気量の関係がよく分かります。窯は小さいながらも焼成の醍醐味が凝縮されているので、やきものの「焼き」を実践するには最適の窯といえます。