失透釉
失透釉について
釉薬の性質・外観の区分のひとつに失透釉(しっとうゆう)があります。失透釉とは表面に光沢がある不透明な釉薬のことです。
失透釉が不透明なのは、釉薬の内部に「細かい結晶」があるためです。
たとえば透明ガラスと、白っぽいタイルをイメージしてみましょう。どちらも表面は光沢がありますが内部が違います。透明ガラスの内部は透明である一方、白タイルの内部は不透明(=白)になっていますね。
これはタイルの内部に結晶があり、結晶が光を乱反射をさせて不透明(=白)になります。これを釉薬に置きかえると、透明ガラスは「透明釉」。白いタイルは「失透釉」というイメージで考えられます。
この素地土は薄茶色ですが、釉薬は白っぽく失透しています。素地や化粧土の色を活かす透明釉とは異なり、失透釉は釉独自の発色(ここでは白色系)になります。釉の内部にある結晶によって不透明になるわけです。
失透釉の作り方
失透釉の要件としては、釉薬の内部に細かい結晶を出す必要があります。実は釉を不透明にする結晶とは、溶けきれない物質の集まりなのです。
つまり失透釉を作るには、溶けきれないほどの成分を加えればよいといえます。
釉薬の成分は「塩基」「中性」「酸性」の3つに大別されます。したがって、いずれかの成分を多くしてあげれば失透することになります。
方法1:塩基を増やす
たとえば塩基質原料のひとつ、「石灰石(=熔かす作用)」を増やしたとしましょう。石灰石に含まれる溶かす成分が飽和して結晶になります。
具体的には、透明釉の調合である長石6:石灰石1:硅石3の調合を、長石6:石灰石3:硅石3にしたとします。すると塩基性の物質が結晶化して不透明な釉薬になります。ただし熔かす作用が強まりますので、流れやすい不安定な釉薬になります。
方法2:中性を増やす
次に中性原料である「アルミナ(=素地と釉薬を接着させる作用)」を増やしたとしましょう。アルミナは主に粘土に含まれますので、カオリンのような白色粘土を用います。少量のアルミナは釉薬の透明度を上げますが、多くなればやはり結晶ができて不透明な釉になります。
具体的には長石5:石灰石1:カオリン1:硅石3(透明釉)の調合を、長石5:石灰石1:カオリン3:硅石1にします。
カオリンを増やすのと同時に、ここではガラスの素になる珪石を減らしました。この場合は媒溶剤である石灰石を増やしませんので、溶けやすくなるよう珪石を減らして調整したことになります。
これで中性の物質が飽和して失透釉が得られるでしょう。この調合比は密着性が高まって釉薬が安定します。ただしアルミナを増やすと粘土に成分が近づくため、これ以上増やすと釉薬として溶けなくなると考えます。
方法3:酸性を増やす
最後に酸性原料である「シリカ(=珪酸:溶けてガラスになる)」を増やしたとします。ガラス成分を増やすことになるので、シリカだけ増やすと釉が溶けなくなります。よって塩基性(熔かす)成分も少し増やす場合がほとんどです。
シリカは一般的な原材料では珪石に多く含まれます。長石5:石灰石1:カオリン1:硅石3(透明釉)に対して、硅石と石灰石を増やします。すなわち長石5:石灰2:カオリン1:硅石5という調合です。その結果、シリカが結晶化して失透釉が得られます。
このケースでは、シリカを増やすだけでは溶けにくい釉薬になります。その一方で石灰石を増やせば、流れやすい釉薬になりえますので調整が難しいですね。
このように不透明な釉薬(=失透釉)には、塩基性・中性・酸性の3パターンがあります。実際には3成分を細かく増減させることもあります。この中ではアルミナ質の失透釉が最も安定したタイプになります。
失透釉とマット釉の関係とは
最後に失透釉とマット釉についてお話します。マット釉は失透釉の不透明状態がさらに進行した釉薬といえます。どちらの釉薬も溶けきれない結晶によって不透明になる点が共通しています。
マットとは一言でいえばツヤ消し状態のことで、釉薬の内部のみならず「表面」にまで結晶がある状態を指します。
失透釉の結晶が増えていけば、いずれマット釉になります。
ただ、失透釉とマット釉を区分しないこともありますね。もし区別する場合には結晶の多寡、すなわち釉表面の光沢の有無で判断すると良いでしょう。
マット釉は表面の光沢もほとんど無くなった状態です。この詳細については別の記事で紹介させていただきます。
さて、失透釉は素地や化粧土の色に関わらず、釉薬独自の色を出すことができます。たとえば白釉であっても、素地の色が透けるほどの失透度から、鮮明な白色までその色彩は様々です。
失透の度合いについては3つの成分調整が必須事項となります。逆に失透釉を透明に戻したい場合にも応用が効きますね。この内容が少しでも参考になれば嬉しいです。