乳濁釉
乳濁釉について
釉薬の性質・外観の区分のひとつに乳濁釉(にゅうだくゆう)があります。乳濁釉とは釉薬の成分がきれいな結晶にならず、非晶質(ひしょうしつ)の状態になっています。
たとえば液状に見えるガラス層や、粒状に見えるガラス層に分かれるため、白濁する釉薬になります。このように釉中の成分が、性質の異なるガラス質に分かれることを分相(ぶんそう)といいます。
- 結晶:分子と原子が規則正しく配列されている。釉中にあると「不透明」に見える。例:失透釉やマット釉
- 非晶質:分子と原子が乱れた配列になっている。釉中に何層もあると「白濁」して見える。例:乳濁釉
乳濁釉の一種に藁灰釉(わらばいゆう)があります。一般的な調合は長石3:土灰3:藁灰4です。
画像を見ると流れるガラス質の様子や、粒子状のガラス質に分相しているのが分かります。そして、それぞれのガラス相が光を屈折・乱反射して濁って見えるのです。
失透釉やマット釉にもこうした濁った釉調がありますが、失透・マット釉はきれいな結晶性の不透明釉。乳濁釉は非晶質性の不透明釉と区別されています。
つまり両者の違いは、不透明になる「要因の違い」といえます。
乳濁釉の作り方
さて、乳濁釉の要件は非晶質のガラスを分相させることです。前述の長石3:土灰3:藁灰4の調合例では、土灰や藁灰に含まれる数%のリン酸などが分相する乳濁剤になります。
また藁灰に含まれる75%ほどのシリカは、珪石に含まれる石英鉱石のようなきれいな結晶と異なります。天然土灰のシリカ(5%~20%ほど)も同様に非晶質です。これら天然灰の非晶質である珪酸分(シリカ)は分相ができやすい原材料といえます。
あとは藁灰や土灰を使う以外に、透明釉にリン酸カルシウムを多く含む骨灰(こつばい)を添加しても分相による乳濁釉が得られます。ちなみに骨灰はボーンチャイナなど、美しい白色を出すために使われる一原料ですね。
たとえば石灰石を使うケースで、長石5:石灰石1:カオリン1:硅石3の調合とします。これは透明釉になりますが、ここに1割の骨灰をまぜると白濁した乳濁釉が得られます。
または長石5:石灰石1:カオリン1:硅石3の透明釉に、亜鉛華(酸化亜鉛)を2割加え、珪石を1~2割増やしても乳濁釉になります。すなわち長石5:石灰石1:亜鉛華2:カオリン1:硅石4という調合になります。
乳濁釉には灰立てが適する理由
乳濁釉は先に挙げた藁灰釉が一般的といえます。なぜならば藁灰釉は斑唐津、白萩釉、海鼠釉(なまこゆう)、兎の斑釉(うのふゆう)など、伝統的な陶器に使われてきた歴史があるからです。
これらの乳濁釉はやわらかく温かみのある釉調が特徴といえます。これは天然灰に含まれるリン酸・珪酸(シリカ)が非晶質であるからです。
非晶質であるということは、はっきりとした結晶ではないため、他の物質と混ざりやすい(=乳濁しやすい)ということです。
よく言えば釉調に微細な変化があらわれたり、柔和で温かい表情になるのです。悪く言えば安定性が無く再現性に欠けるといえるでしょう。昔の陶工達が苦心したことも推し量れます。
たしかに石灰石や硅石のように均一で安定した釉調もひとつの利点といえます。しかし土灰や藁灰のように、成分が一定ではないところ(=微細な変化が得られる点)も捨てがたい要素です。
そして乳濁釉は焼成による個体差があらわれる釉薬です。たとえば同じ電気窯で複数の作品を焼成しても、失透釉やマット釉は大きなバラつきは出にくいです。いっぽう乳濁釉の場合、作品ごとに乳濁の淀みや表情が変化します。
したがって釉調の変化や温かみを求めるのであれば、昔ながらの草木灰立ての乳濁釉が適すると考えます。
いっぽうで成分の均一化と安定性を取るならば、石灰石立ての調合がよいでしょう。この場合はリン酸分を骨灰から、シリカを珪石から補填しています。草木灰よりやや硬い釉調になりますが再現性に優れています。
草木灰立て・石灰石立てそれぞれの乳濁釉と、素地粘土との相性など色々と試してみるとよいでよう。