結晶釉
結晶釉について
釉薬の性質・外観の区分のひとつに結晶釉があります。結晶釉(けっしょうゆう)とは、釉中にある結晶がはっきり目視できる釉薬のことです。
失透釉やマット釉の場合、結晶質によって不透明になります。しかしその結晶をひとつひとつ肉眼で確認することはできません。そのいっぽう結晶釉の場合は、結晶が核を形成して大きくなるため肉眼で確認できます。
左がマット釉、右が結晶釉です。マット釉の結晶は細かく視認できないのに対し、結晶釉は視認できるほど大きな結晶が生成されています。これは亜鉛華(あえんか:酸化亜鉛のこと)を用いた亜鉛結晶釉の例です。
この釉薬は粘りが少なく、表面で結晶が成長しやすいタイプの釉薬といえます。粘りが少なくなる理由は、溶かす成分である塩基性の成分が多いからです。
このように石灰立ての透明釉に亜鉛華(外割15~20%前後)を加える亜鉛結晶釉のほか、酸化コバルト(外割20%前後)、酸化チタン(外割5~10%)、二酸化マンガン(外割20~30%前後)を用いた結晶釉もあります。
別のパターンでは、鉄砂釉や蕎麦釉などの鉄釉の一部、または禾目天目釉、油滴天目釉のように細かい結晶が浮き出るパターンもあります。
これは蕎麦釉(そばゆう)の作例となります。亜鉛結晶釉の場合とは異なり、釉薬はある程度粘りのあるものが多いです。
このタイプの結晶は、まず粘りのある釉が溶けはじめに泡を出します。そして泡の噴き出した部分に鉄などの金属が密集して、目に見える結晶になるわけです。
酸化焼成で黄色味を帯びた器面に、黒い鉄分が結晶になって表れていますね。ある程度粘性のある灰釉に、5~8%程度の酸化鉄を外割で加えているものと推測します。
結晶釉の作り方
さて代表的な結晶釉には、前述の亜鉛結晶釉が挙げられます。調合は透明釉に亜鉛華を加えるものが一般的だと思います。
釉薬の3大組成は、1.塩基性(熔かす役割:灰や石灰石などの媒溶原料)、2.中性(釉と素地を接着させる成分:アルミナ)、3.酸性(熔けて釉のガラス質になる成分:シリカ)です。
透明釉のページで挙げた調合例をベースに亜鉛華を調整します。なお草木灰は成分にバラつきがありますので、石灰石の方が安定していると考えます。
- 長石5:石灰石1:カオリン1:珪石3…バランスが取れた透明釉。
長石が基本原料、石灰石からは塩基性の媒溶成分、白色粘土のカオリンからは中性のアルミナ、珪石からは酸性でガラスの素になるシリカ(珪酸)を取り入れています。
ここから塩基性の亜鉛華を20%加え、カオリンと珪石を減らします。その理由はアルミナとシリカを減らすことで、亜鉛華の割合(%)を増やしたいからです。また少量のアルミナは釉を透明にして結晶を出来にくくするため除きます。
これで結晶になる下地ができ、結果的に亜鉛華の濃度が高くなります。そして釉に溶けきれずに結晶になる確率も上がります。
- 長石5:石灰石1:亜鉛華2:硅石2…亜鉛結晶釉の調合例
アルミナを含むカオリンはなくなり、シリカを含む珪石は約33%減量されたことになります。釉薬が熔ける温度帯は1,200~1,250℃の温度帯になるでしょう。
この釉は結晶ができやすい一方、アルミナ・シリカの割合が減ったため流れやすいといえます。結晶ができやすい(=器面で大きくなりやすい)ということは、流れやすく粘りの少ない釉薬が適しています。
次に目に見える結晶釉にするため、亜鉛華を大きく結晶化させる手順を加えます。
結晶を生成するための徐冷
釉薬が溶けた段階から急冷すると結晶が成長しません。したがって釉が溶ける最高温度から徐々に温度を下げ、100℃~300℃下げて数時間キープした後は自然に徐冷します。
条件によって温度帯や時間には非常にバラつきがあります。たとえば上記の釉薬であれば、釉が溶ける1,200℃前後で30~60分練らし(最高温度をキープする)、約40分ほどで1,100℃まで温度を下げます。次にその温度を3~4時間キープすると結晶が1~2cmと大きくなります。
まずは釉薬が熔ける温度を特定し、そこからゆっくり温度を下げてその温度帯をキープする。このような徐冷作業が必要になります。
なお最高温度が高くなりすぎると、結晶がほぼ見えなくなる場合もあります(単なる失透・マット状態)。そして急冷すると結晶がより少なくなり、結晶生成の時間が長いと鮮明な結晶になりません。こうした要因があるため、安定した結晶釉の再現と温度管理は難しいといわれます。
今回は代表的な結晶釉として、亜鉛結晶釉を取り上げました。鉄釉や天目釉については、別の機会に個別に紹介させていただきます。
さて、亜鉛結晶釉は透明釉の調合に対し、塩基性の原料を多めに加えたものとまとめられます。そして結晶をより大きく析出させるため、焼成条件も考慮しなければなりません。
このように偶然に左右される要素も大きいですが、光を浴びた色彩と模様の多様性など興味深い釉薬といえます。