上野緑釉 | 上野釉
上野緑釉について
上野緑釉(あがの りょくゆう)とは、福岡県の上野焼で使われる緑釉(酸化焼成)のことをいいます。上野焼に特徴的な釉薬であり、単に「上野釉」と呼ぶこともあります。
上野緑釉の呈色剤には主に酸化銅が使われます。このように銅を呈色剤とする釉を「銅緑釉」と呼びます。ちなみに灰釉に酸化銅を加える織部釉もこの類となります。
さて上野緑釉の色については、緑だけではなく青に近い発色も見られます。白濁した箇所もあることから乳濁釉の性質もあるといえます。
この例では部分的に乳濁する灰釉がベースになっています。そこに酸化銅を3~5%加えるとこの釉調が得られます。また呈色剤である銅原料を変えても、乳濁して青味が強まることもあります。
ベースになる釉薬を調整する
たとえば乳濁釉(ここでは藁灰釉)を使った調合例を挙げれば、
- 調合例:平津長石3:土灰3:藁灰4。外割で酸化銅(II)を4%
これは平津長石がやや失透するのに加え、藁灰を多めにした藁灰釉の調合例です。釉薬が溶けると全体が乳濁しますが、高温になるにつれて次第に透明になっていきます。
そこで乳濁部分を残せば、画像のような緑と青の混ざった釉調が得られます。もしくは、透明に近い灰釉で作った銅緑釉(酸化銅4%)を施釉し、部分的に藁灰釉ベースの銅緑釉を筆置きしてもよいでしょう。
また失透釉を使った調合例では、
- 福島長石2:土灰7:藁灰1。外割で酸化銅(II)を4%
福島長石は透明度が高いので表面の光沢が出ます。媒溶剤である土灰を多くしたため、失透~マットになります。場合によっては結晶が析出し、全体的に青味がかった釉調になるでしょう。灰の割合が高いので、流れやすい釉薬になります。
このようにベースの釉を調整して失透・マット・乳濁いずれかの状態を再現するとよいです。白い部分と混ざった銅の緑は、青味がかった美しい発色をします。
銅原料を変える
次に呈色剤を変える方法です。酸化銅(II)が一般的に入手しやすいですが、炭酸銅(=緑青)や、酸化銅(I)も試す価値はあります。
たとえば銅の削りくずを「銅へげ」といいますが、これは酸化銅(I)のことです。赤い粉状のもので、酸化銅(II)に比べて乳濁しやすいです。釉の厚い部分に青味が差すことがあり、釉の溜まった箇所や、皿の見込みなど部分的に青緑色になります。
全体的に青緑色を出したいのであれば、ベースの釉薬を調整(失透・マット・乳濁)。釉だまりなど部分的に青緑色を出すならば、酸化銅(I)や炭酸銅を試すと良いでしょう。
- 平津長石6:土灰3:藁灰1。外割で酸化銅(I)5%
酸化銅(I)・炭酸銅の割合は5%が適量です。黄瀬戸の胆礬(たんぱん)で用いる硫酸銅の場合は8~10%の濃度が必要です。テストピースは濃度を数パターンに分けて試してみて下さい。
数ある上野焼の釉薬において、この緑釉は特徴的なものです。もともと上野の地には銅山があったため、豊富な緑青が手に入りました。
そして近隣の高取焼・唐津焼との関係も深かったことが知られています。高取の藁灰釉や斑唐津など、上野には乳濁釉の情報も十分あったはずです。
こうした背景から銅原料と乳濁釉(もしくは失透釉)による上野緑釉が生まれたのだと考えます。白濁した表情は柔らかく、独特の雰囲気を持った釉薬です。