伊羅保釉
伊羅保釉について
伊羅保釉(いらぼゆう)とは伊羅保茶碗に使われる釉薬です。伊羅保茶碗は高麗茶碗の一種であり、侘びた佇まいと素朴な釉調が見てとれます。
その伊羅保釉は、胎土の砂気により手触りが粗いのが特徴です。高麗茶碗の名の起源は不明なものが多く、伊羅保の由来もはっきりとしていません。
一説によれば釉肌が粗く、イライラした釉調から「伊羅保」と名付けられたといいます。灰をベースにしながらも、鉄分を含む伊羅保釉は鉄釉の一種でもあります。
伊羅保釉の鉄分量は5%前後と思われますので、蕎麦釉や飴釉と近い含鉄量と考えます。蕎麦釉と飴釉は表面にツヤのある失透性のものからマットまで様々です。しかし伊羅保釉は光沢のないマット釉が大部分を占めます。
また、焼成温度によっても釉調はだいぶ変化します。高温で焼けば透明度が増してしまいますから、マットで伊羅保独特の質感を出すには、高温で長時間焼成しない方が良いとされます。
現代では伊羅保釉は茶碗に限らず、多くの作品に用いられています。木灰と黄土の調合で得られる釉で、場合によっては長石を混ぜることもあります。
- 調合例1:京都黄土5:土灰5
- 調合例2:釜戸長石3:京都黄土3:土灰4
長石を入れる調合では表面にツヤが出ることもあります。発色は土の成分にもよりますが、おおむね酸化焼成で黄褐色になり、還元焼成で暗褐色に焼きあがります。
万が一釉薬の剥離が起きる場合は、施釉の時にフノリを混ぜてみると良いでしょう。もしくは黄土の割合を減らしてカオリンを足します。
- 調合例3:釜戸長石3:京都黄土2:朝鮮カオリン2:土灰3
テストピースを作る場合は鉄分を含む粗目の土が良いです。というのも、伊羅保の特徴を出すためには、ザラついた触感など素地土の選定も大切な要素だからです。
基本的に伊羅保の釉肌はツヤ消しのマット状になっています。釉薬は簡単な調合である場合が多く、薄めに施釉されます。
釉の薄い部分は焦げたような肌が見てとれます。こうしたマットな質感と焦げのような風情、器面の小さな起伏が伊羅保の特徴です。
参考:伊羅保の種類
伊羅保茶碗にはいくつかの種類があります。釉調と作風によって区別されています。
- 片身替わり:伊羅保釉と長石釉をかけ分けた作品。見込みに刷毛目を施したものもある。代表例として「千種伊羅保」など。
- 釘彫り伊羅保:釘で彫文様をあしらった作品。釉は伊羅保釉が施されている。代表例として「苔清水」など。
- 黄伊羅保:全体的に黄色味の強い作品。代表例として「女郎花」(おみなえし)など。
これらの作例から分かる通り、伊羅保釉は多様な表情を見せてくれます。
黄褐色の釉が薄いところは焦げて茶色に染まり、釉だまりの厚いところは条痕を生じて流れる景色も楽しめます。変化に富んだ釉調は伊羅保釉の醍醐味でもあります。