変形皿 | 色絵菊図向付の例
変形皿について
和食器には一風変わった形のうつわがあります。一般的に変形皿(へんけいざら)と呼ばれる一群で、自由奔放な形で一定の決まり事がありません。
変形皿の発祥は桃山~江戸初期まで遡ります。当時は千利休や古田織部(ふるたおりべ)が、茶の湯の宗匠だった時代ですね。茶碗や花入・水指・向付に斬新な形が表れてきます。
たとえば織部焼に見られる歪んだ沓形(くつがた)、志野茶碗や水指の躍動的な造形、向付では織部焼にバリエーション豊かな変形皿(型づくりの向付や小鉢など)が見られます。
その後は懐石道具にも変形皿の作例が増えました。現代においても、小鉢・向付・豆皿などさまざまな和食器に用いられています。
これは色絵で白菊を描いた向付です。いくつもの菊を描けるよう形状が工夫されています。向きは画像のとおり葉の部分が手前になります。
この形をみると上下左右がすべて非対称で変化に富んだ器形です。菊の向きを見ても中央から左は正面を向き、右方向の花はむこうを向いています。
また向付の手前は低く、奥は見栄えが良いようにやや高く作られています。手前から料理を取りやすいだけではなく、うつわの立体感を楽しめる工夫が見てとれます。
変形皿 左右非対称の面白さ
次に「数」に注目してみましょう。花の数は正面が「3」、むこう向きが「5」、葉のついた茎は「5」。そして皿の輪郭が花びらのようになっていますが、手前の花びらが「1」とすれば残りの花びらは「7」。
これらの数字はみな奇数ですが、これにはある理由があります。
それは日本人が古来から持つ美意識と関係します。その中に「左右非対称の美しさ」というものがあります。均衡の取れていない中にも調和と美しさがある、という感性です。
偶数にすると左右対称になってしまいますね。そこで奇数することで形に変化をもたらし、作品全体としてはバランスの取れた形にまとめています。
このように形は変則的であっても、全体としてある種の調和が取れている点が変形皿の面白さといえます。
さて、この形ですと盛り付けの構図などちょっと迷いますね。ですがうつわの中央に盛り付ければ、全体のバランスがよいことに気付きます。これは前述の通り、もともと全体の調和が取れているからです。
そして形の個性がやや強いので、食材はシンプルなものが合うでしょう。
たとえば香の物(漬物のこと)を盛り付けるとします。ちょっと地味な食材でも、こうしたうつわに盛り付けると華やいで見えますね。
これは器の個性が強いため、色や形がシンプルな食材がよく似合います。つまり簡素な香の物に対して、向付が華を添えてくれるともいえます。
和食器には多種多様な変形皿がありますので、個性的でバリエーション豊富な形として楽しめると思います。