釉薬を自作する その1
釉薬を自作する面白さ
市販の釉薬は安定していて扱いやすいものが多いです。しかし焼成環境がほぼ同じであれば、誰でも同じような釉調になります。安定性に優れている反面、これでは個性が出せず物足りない事もあるでしょう。
そこでオリジナルの釉薬にチャレンジすることもできます。安定性は市販のものに及びませんが、釉の個性や意外性という点では非常に興味深いと考えます。
テストピースを作って調合を記録すれば再現も可能です。ただし個人で原料を確保する場合は限界がありますね。その原料が無くなったらおしまいです。
さて、オリジナルの釉薬を作るには原料を調達することになります。調達にあたってまず原料の3つの役割を考えるとよいでしょう。
- 釉を熔かす:草木灰や石灰石
- 釉と素地粘土の接着:長石や陶石、粘土
- ガラス質になる:珪石や藁灰
この3つの役割を持つ原料を集めていきます。原料は販売店で個別に買うか、自前で調達することになります。
なお釉原料の要素と役割の詳細は、このページで紹介しています。(参考ページ : 釉薬の3大要素 | 熔かす・接着・ガラス)
釉薬の原料を調達する
まずどんな釉薬を作りたいか決めます。これで調達する原料が決まりますね。今回は藁灰釉(わらばいゆう)を自作したいと思います。
原料は長石・木灰・藁灰を用意することにしました。それぞれの役割は前述の通りです。なお長石や陶石には接着する役割のほか、釉を溶かす・ガラスになる成分も持っています。
詳細は割愛しますが、長石・陶石を調合する事で安定性が増すと考えて間違いありません。
【原料その1/3:土灰】
土灰(どばい)とは雑木の灰のことです。今回使う灰はナラが6~7割程度、あとはクヌギ、樫、桜などの木が燃やされた灰です。家庭用の暖炉から分けてもらった灰なので大まかな構成しか分かりません。
これはフルイにかけた段階の画像です。フルイの目は好みによりますが、50目のもので試しました。目の数値が上がれば粒が細かくなっていきます。
なお土灰は釉薬自体を「熔かす」役割を持っています。窯の炎で大部分が焼失しますが、土灰には30%ほどの溶かす成分(=酸化カルシウム)が含まれています。強力な媒溶剤となるわけですね。
藁灰釉の中では土灰4割の調合比にする予定です。
精製の手順としては
- フルイにかける
- 水簸してアクを抜く(2~3週間)
- 天日干しする
ここで最も大切な工程は水簸によるアク抜きです。アクは「灰汁」と書きます。灰に含まれるアルカリ性の灰汁が残ったままだと、釉薬として欠陥が出ます。
その欠陥とは発色が悪い、粘土の強度を下げる、気泡を伴うブク、釉剥がれ・縮れなど。灰汁抜きが不十分だと、あらゆるトラブルが発生しやすくなります。
ただし水簸後であってもアルカリ分は必ず残ります。ph値でいえば水簸前は10.5、水簸後は9でした。
ほとんど変わらないように見えますが、水簸前の状態では釉剥がれとブクが出ます。ちなみに水簸後の灰ではブクが収まっています。
いずれにせよph値はアルカリ性ですので手荒れに注意しましょう。天日干しには数日~2週間ほど期間を設け、完全に乾いたら完成です。調合する際は乳鉢で細かく擦りながら混ぜていきます。
【原料その2/3:長石】
長石は基本原料として使用します。長石は「熔かす」「接着」「ガラス」全ての役割を持っています。それらの大まかな割合を示します。
- 酸化カリウムなど:溶かす:約11%
- アルミナ:接着:約16%
- シリカ:ガラス:約72%
合計100%にならない理由は、このほか燃えてなくなる部分(灼熱減量)や微量な鉄分などがあるからです。大まかな目安として見ていただければと思います。
長石ははじめハンマーで砕いてから徐々に細かくしていきます。茶色の部分は鉄分のサビでしょう。多少の不純物は釉の発色に多様性をもたらしてくれるはずです。
なお藁灰釉における調合比は長石2割と考えています。
精製手順としては
- 細かく砕く
- 石臼で更に細かくする
調合の際は土灰と同じように乳鉢ですり潰します。ただしすり潰し過ぎると石の個性が出ないとも言いますね。この辺はさじ加減ならぬ、乳棒加減ということになります。
【原料その3/3:藁灰】
藁灰は稲藁を燃やした灰です。藁灰は灰であっても土灰のように溶かす作用を持ちません。今回は自前で藁灰が入手できなかったため、市販の藁灰1kgを購入しました。
市販の原料は灰汁抜きと乾燥が終わった状態です。はっきり言ってとても楽ですが、天然藁灰が手に入れば灰汁抜きなど全工程をやってみたいです!
さて、藁灰のようにイネ科の植物灰は「ガラス」になる成分を持っています。藁灰であれば約70~80%がガラス成分(=シリカ)になります。籾殻の灰や竹の灰なども同様にシリカを多く含みます。
ちなみに珪石の場合は90%以上のガラス成分(=シリカ)を含みます。ここで藁灰を使う理由は、藁灰に含まれるリン酸などの不純物が、乳濁する藁灰釉にとって好ましい成分だからです。
精製方法は土灰と同様です。調合時はやはり乳鉢で細かくすり潰して混ぜていきます。
藁灰釉における調合比率は藁灰4割と考えています。これで今回作る藁灰釉の調合は、天然長石2:天然土灰4:市販の藁灰4となります。
あとはテストピースを作って焼成試験です。まずは釉薬として熔けるのか。次に発色はどうか。トラブルは…といった具合に実用に向けて詰めていきます。
問題が生じた場合、調合比率を変えて調整していきます。媒溶剤、糊剤を加えることもあるんですよ。具体的な手順は別途紹介させていただきます。