手びねり:玉づくり
玉づくりについて
ロクロを使わない手びねりの中でも、玉づくりは最もシンプルな成形方法です。土を締める・立ち上げる基本作業ですので、玉づくりができれば大抵の作品ができるようになります。球状の粘土から立ち上げて好みの厚さで形を作っていきます。
手びねりの良さはなんといってもその手作り感です。表面には指のあとが残り、形を見ても柔らかさが見てとれます。陶芸家をはじめ一般の方々でも「手びねりの空気感がよい!」という方は多いと思います。端正なロクロ成形とはまた違った魅力があります。
さて、今回は粘土を湯呑み型と朝顔型にする手順を紹介します。亀板(かめいた:作品を載せる木製の板)があれば作れます。ただ手回しロクロに慣れた方は、ロクロの上で作業した方がやりやすいと思います。
粘土の硬さについての目安は、まず粘土を2cmほどの太さの棒状にして90度に折り曲げます。そこでひびがほぼ入らなければ適切な水分量、ひびがたくさん入れば加水しておきます。亀板・濡れたスポンジを用意して作業を始めます。
【湯呑み型について】
粘土を垂直に立ち上げるので、まっすぐ筒形になっていればよいです。他の形はこの筒形からの応用でほぼ何でも作れます。動画内のチェック項目は
- 厚さが均一か:水分量が均一になる。余分な空気が入らない
- 見込みの底が締まっているか:土台が固まれば安定する
- 大きなひびが無いか:全体の水分量と粘土のしまりが適切
この3点だけで削り・施釉・焼成すべてがやり易くなります。厚さが均一で締りがよいと、作品が削りやすく、釉薬を均等に吸収し、焼成時には内部の水分による水蒸気爆発(破損)が起きづらくなります。
はじめは作品の上部に意識が行きがちです。しかし土台を締め忘れると、見込みの底が削りにくい、乾燥・焼成したら変形した、ひびが入るなど問題が出てきます。
高台部に粘土が多すぎた場合は切り落とせばよいです。ですが見込みの底が「Uの字」で締りが甘い場合、やや極端ですがイメージ図のような問題が生じることもあります。Uの字の丸みをつぶして土台を固めましょう。
【あさがお型について】
粘土を斜めに立ち上げるので、粘土が伸びる分ひびが入りやすいです。ひびを無くすには軽く水で濡らして粘土をひたすら締めます。表面だけこすっても、粘土の締りが甘いとまたひびが生じます。
湯呑み型と同様に土台を固めながら上へ立ち上げていきます。動画は左のイメージ図に近いですね。高さは足りますので削りを残し、重みにも耐えられる厚さです。
高さが足りない場合は右図のようにします。口縁部の少ない粘土をのばすのではなく、底から粘土を寄せれば自然と高さが出ます。高台付近は、上部の重みに耐えられる厚さならば削りも少なくて済むでしょう。
なおここでのチェック項目も湯呑み型に準じます。
玉づくり 工程概要
1.【球状の粘土を広げる】
まず親指を「垂直」に入れます。斜めにすると土が横に間延びしますので、必ず真上から垂直に入れます。作品の径を決めたら底にあたる部分を叩き道具・または指でしっかり押して締めます。
片手で底を押すと横に広がるので、もう一方の手を外側に添えて広がるのを防ぎましょう。土台部をしっかり締めておかないと、粘土を上に延ばしていった時に安定しません。なぜなら粘土はつながっていますので、まずしっかり土台を固めます。
2.【粘土の立ち上げと厚さ調整】
粘土を両手の指でつまんで「寄せて」いくと自然に立ち上がっていきます。両手の間隔を2cmほどにするとやりやすいです。
無理やりめくり上げるように引っ張ると粘土が伸びますので、その分ひびが入りやすくなります。必ず粘土を寄せて締めながら立ち上げることが大切です。
厚さは湯呑み・飯椀ならば5mm程度、やや大ぶりの抹茶椀なら1cmほどが適切でしょう。指を伸ばして作業すると平らで均一な厚みになります。「あとで修正できるから分厚く作っておこう!」とすると、余分な空気が残る・削りが増える(=粘土に負担が多くなる)・乾燥が遅くなることになります。
なお粘土が乾燥してひびが入ったらスポンジで加水します。この際の注意点としては「濡らしすぎない事」です。
濡らしすぎると滑って成形しにくくなるうえ、ひびから水を吸い込んで部分的に柔らかくなります。厚さを均一にしようとするさい、水分量の多いところだけ柔らかく弱くなります。かたく絞ったスポンジでやさしく叩く程度に湿らせます。そして粘土を寄せればひびが無くなっていくでしょう。
とりあえず濡らして手でこすってひびを埋める方もいます。これは粘土が締まらない状態、つまりひびの根本的な原因をなくさずに、ただ表面だけ埋めている状態です。乾燥すればまたひびが入りますので「土を寄せて締めることでひびを無くす」ようにします。
3.【室(ムロ)で乾燥させる】
ムロとは小型の乾燥室のことです。木箱のムロがよいとも聞きますが、フタ付きの発泡スチロールかプラ容器で十分だと思います。ムロに入れることで密閉された乾燥空間になります。薄い部分(口縁など)と厚みのある部分(高台回りなど)が均一に乾きます。
ムロで3日ほど置けば適度に水分が乾燥して削り作業が出来るようになるでしょう。削りが出来る水分量の目安は、表面に爪を立ててうっすら跡がつく硬さであれば問題ありません。
また、ムロが用意できない場合は透明のラップでくるんで置いておくだけでもよいです。これで風の影響を受けずに簡易的にムロが出来ます。陽のあたらない場所に安置しておけばよいです。
玉づくりFAQ
Q1.作っているうちに底の径が広がってしまう。
A1.親指は内側に添えるだけで力を抜き、人差し指・中指を伸ばしてしっかり外側をおさえて成形します。立ち上げは上に引っ張り上げるのではなく、粘土を寄せた結果、自然に上へと立ち上がるよう意識します。
Q2.大きなひびがなくならない。
A2.粘土を締めずに立ち上げている(=一方向に引っ張っている)。もしくは一か所の締めが強すぎて、他の部分が引っ張られてひびが入っています。目の前にある粘土を見て、寄せながらひびが無くなる力加減を確認しておきます。水を加えたらほんの少しの寄せでひびが埋まるのが分かると思います。
Q3.厚さが均一にならない。
A3.指が曲がっているか力が入りすぎています。特に外側の指(人差し指・中指・薬指)をまっすぐに伸ばすと上手くいくと思います。内側も親指を伸ばして内側・外側から均等に力を入れます。また両手の間隔が開くと凹凸が出やすいので、両手をつけて「面」で押さえつける感覚で上手くいきます。「点」になっているとやはりうまくいきません。
最後に乾燥について補足します。急激な乾燥は収縮を早め、ひびや割れの原因になります。前述のとおり密閉(に近い)状態でゆっくり乾燥させるとひびが入りにくくなります。
ただし小さな表面のひびならば、削りでなくなってしまうので問題ありません。粘土の「内部」がしっかり締まっていれば丈夫な作品ができるでしょう。