うつわが割れてしまったら
思いがけず大切なうつわを割ってしまうことがあります。大事に使っていたものであれば、壊れても使い続けたいものです。それは長年使い続けるうちに思い出が詰まってくるからです。
以前、大切に使っていた湯呑みを割ってしまいました。唐津の量販店で手にした斑唐津の湯呑みです。買った当時のことは勿論、日々の思い出もありますし、修繕して使い続けることにしました。
その時お世話になった金継ぎ(きんつぎ)を紹介します。これは陶磁器の代表的な修繕方法のひとつであり、伝世品など古陶磁器にもよく見られる修繕法です。
金継ぎとは
金継ぎは金繕い(きんつくろい)とも呼ばれます。はじめ金で接着するものと思っていましたが、実際は漆を接着剤として使います。その漆の上に金粉をまいて、さらに漆で固めて表面を磨いていきます。
なお天然の漆は大気中の水分を吸ってゆっくり固まります。よって修復までにはそれ相応の時間がかかります。
私の場合、日数は二か月ほどかかりました。それを手に取ると痛々しかった割れ目に金が施してあります。たしかDIYセンターで購入した金継ぎセットだったと思いますが、修繕したがっていた家人にお願いしたのです。
手に取れば器面に入ったひび跡が、金模様となって新たな景色をなしています。単に割目を継ぐだけではなく、金の装飾によって生まれ変わったともいえます。
湯呑みに向かって「うむ。桃山唐津のような古格がある」と口にしてみましたが実際は全くありません。しかし新しく蘇った湯呑みにはさらなる愛着が増しました。一生懸命なおしてもらったという思い入れも強まります。
たとえもっと細かく割れてしまったとしても、根気よく時間をかければ大切なうつわは蘇ります。破片は拾えるものは全て集めておきましょう。そして自分では難しいと判断したら専門家に任せるのが良いです。
なお注意点としては、高温で金と漆が融解しないよう気を付けます。たとえば火にかけたり電子レンジは厳禁となります。
その他の繕い
さて金継ぎのほかに銀継ぎと銅継ぎがあります。それぞれ銀と赤銅を施す繕いの方法です。金と違って酸化するものの、渋みがあって作品によって調和がとれるものもあるでしょう。
また蒔絵直し(まきえなおし)は修復部分に蒔絵を施す方法です。画像検索すると雅な繕いがいくつか出てきます。
たとえば川喜田半泥子の欲袋(よくぶくろ)にも蒔絵直しがしてあります。これは割れ目に青海波文がしつらえてあります。
もしこれが金継ぎだったら全く印象が変わることでしょう。動きのある器形は、落ち着いた雰囲気の青海波紋によって調和が取れているからです。
このように繕いは修復だけが目的ではありません。従来の機能を取り戻すだけではなく、装飾の美しさにも一役買っているのです。