銀継ぎの手順1:室(ムロ)と麦漆
室(ムロ)と麦漆について
このページは銀継ぎの最初の工程になります。破損したうつわを接着して乾燥させるまでの工程です。実際に漆を使って接着した後、乾燥で約10日間かかることを想定しています。
室(以下ムロ)とは漆を乾燥させる容器の事です。漆は大気中の水分を吸って乾燥する性質があります。また、温度も大切な要素で高温多湿ならば早く乾燥しますが、接着がもろくなる危険性が高くなります。したがって適切な温度・湿度を保ちながら「ゆっくり乾燥させることが肝要」です。適切な温度は24℃から28℃の間、湿度は70%~80%が理想とされています。
麦漆(むぎうるし)とは破損したうつわの接着剤のことです。材料は漆と小麦粉を混ぜます。分量は小麦粉:水:漆=1:1:2です。
本工程で用意するもの
上段左から
- ムロに使うもの:うつわを密閉できる容器を用意します。木箱・プラスチック容器など。
- 小麦粉を熔く入れ物:ここでは椀の修理なので小型の物。
- 小麦粉:少量
- 下地用の生漆(きうるし):少量※本漆はかぶれにご注意ください
- ヘラ:小麦粉と漆を混ぜるためのものです。漆でかなり汚れます。
- スプーン:小麦粉と水が混ぜられる物なら何でもよいです。
- 破損したうつわ:粒子状になった破片以外は集めておきます。
漆の汚れをふき取るためのテレピン油、かぶれが心配な方はビニール手袋を用意します。画像に入れられなかったのですが、小麦粉と漆を混ぜるためプラスチック製の下敷を用意します。この上でヘラを使って漆と小麦粉をこねます。
なお、破片が無くなってしまった部分は砥の粉(とのこ)と下地用の生漆を使って錆(サビ)を作ります。砥の粉は粘土(黄土など)を焼いてできた粉のことです。なくした小さな破片の部分にサビを埋め込んで下地にします。あくまでも漆と粘土の粉なので、大きな破片の代用はできません。
錆(サビ)の割合。砥の粉2:水1:漆1。画像は後で説明させていただきます。
1.小麦粉を水で熔く
小麦粉と同量の水を加えよく混ぜ合わせます。小麦粉の粉っぽさがなくなり、とろみが出てくるまでしっかりとかき混ぜます。
2.漆と混ぜて麦漆を作る
プラスチックの下敷の上で漆と混ぜ合わせます。『水+小麦粉』と同量の漆をヘラでよく混ぜ合わせます。ある程度の粘りが出たら麦漆の完成です。空気に触れて黄土色の漆が黒くなっている部分が出てきました。
3.a 割れ目に麦漆を塗る
漆の汚れは取れにくいので、汚れそうな箇所にマスキングテープをしたほうが良いです。私はしませんでしたが後で汚れを落とすのにかなり時間を取られました。
ヘラの角に麦漆をつけ、割れた面に塗って接着します。必ず小さな破片から接合していきます。大きい破片から行うと、小さい破片が最後に入らない事になりかねません。この図では3つの破片しかない単純なケースなので、やりやすい順番で接着しています。
なお安定した状態で接着したいので、破損状態によってはテープや輪ゴムで固定しながら徐々に作業を進めていきます。
3.b 欠けた部分をサビで埋める※サビが不要な場合4の手順にすすみます
小さな破片が無くなってしまった場合、先に述べた錆(サビ)を作ります。麦漆と比べて粘性が高く粘土のような状態になります。
砥の粉2に対して水を1。よく混ぜ合わせます。次に『砥の粉+水』に対して漆(水と同じ量)をよく混ぜ合わせます。粘りが出て固まってきたらサビの完成です。ヘラの角にサビをつけてうつわの欠けた部分に塗ります。
ゴチャゴチャして申し訳ないのですが、赤い点線内にサビを施してあります。ムロで乾燥させた後にサンドペーパーで平らに削り取ります。サビは縁の欠けや小さな破片の欠損を補うものと考えてよいでしょう。画像のような大皿は大型のムロを用意するか、ラップと割り箸を使ってテント状のムロを作ります。
4.テープで固定して放置する
接着面の亀裂から漆がはみ出てきます。はみ出した漆が厚い場合、表面だけ乾いて肝心の接着部が弱くなることがります。ですので余った漆をティッシュで軽く拭き取ります。私の場合は汚れが結構ついてしまいました。はみ出した厚みが1mm程度ならばふき取る必要もなく、乾燥させた後に落とせばよいです。
次にテープで固定して接着状態を保ちます。あとで剥がしやすいよう、画像のようにテープの両端を内側に折っておくとよいです。この状態でムロに入れずしばらく外に置いたまま放置します。時間は5~10時間ほどでよいと思います。麦漆は漆と小麦粉の混合物なので、ある程度の時間をかけて成分が安定して固まればよいわけです。次は保湿されたムロにうつわを入れる工程です。
5.テープを外してムロに安置する
ムロの底にティッシュを置いて水を含ませます。底を水浸しにせずティッシュ全体に水が染みわたる程度にしておきます。漆が水に触れると白く膿んでしまうので注意します。
1~2日もすると内部に結露してくるのが分かります。このまま一週間から10日ほど安置します。要件としては温度変化がおきないよう直射日光をさけ、密閉して空気が揺れない(=安定した)状態で保管します。
破損状況によってテープをつけたままムロに入れる場合は、テープを貼った所が乾きにくく漆が白っぽくなります。そこで数日様子を見て、漆が十分に硬化した状況でテープを取り外します。また、ムロに敷いたティッシュ(もしくはタオルなどの保湿材)が乾燥しないよう注意します。これで第一の工程、接着と乾燥は終了です。