堆線文 | 堆花の技法
堆線文について
堆線文(ついせんもん:たいせんもん)とは、作品の表面に盛り上がった線をつける技法です。『堆』とは「盛り上げる」「積み上げる」という意味を持ちます。堆線文は堆花(ついか:たいか)とも呼ばれますが、ここでいう『花』とは「模様」という意味を持ちます。
そして堆線文は一般的に直線を指しますが、広義では曲線のものも含まれます。いずれにせよ「器面に盛り上がった連続線が施された作品」という認識でよいでしょう。
例を挙げれば、直線のものは中国(宋代)の磁州窯をはじめとする堆線文の壺など。曲線のものは法花(ほうか:明代)に見られるような輪郭線が代表例といえます。※法花については後述させていただきます。
さて、磁州窯の中でも白堆線文と呼ばれる作品群があります。その多くは白色系の化粧土に、同じ土で堆線文をあしらい、黒釉をかけた作品になります。盛り上がった線の頂点は黒釉が流れ、もともとの白い土が露出します。
このように凸部の装飾と釉流れによる濃淡が生じます。または線が斜め・横になれば釉だまりの効果も得られるでしょう。
堆線文の技法
堆線で使う土は作品の素地と性質の近い土が望ましいです。これは収縮率・耐火度を等しくするためで、素地土と堆線文の土が全く異質だと、剥がれや割れの原因となるからです。
線のサイズと本数は作品にしたがって作ります。貼り付ける器面にヘラで浅く引っかき傷をつけ、水に熔いた泥漿を塗っておくと密着がよいです。なお紐状の粘土を捻じるようにしながら押さえつけるとより密着します。
直線であれば紐状の粘土を器面に貼り付け、指とヘラで押さえながら形を整えます。指で慣らす場合は親指と人差し指でつまむようにして、線の通りに押さえつけるとよいでしょう。強くつまめば盛り上がりが三角形になりますので、そのまま装飾として活かすこともできます。
曲線ならば紐状の粘土のほか、化粧土を筆置きする、もしくは描画しやすいイッチンも用いられています。(参考ページ : イッチン | 筒描きの技法)筆置きやイッチンの場合、引っかき傷も泥漿も不要ですが、乾燥まで時間は当然かかります。
そして5~7日ほど十分に乾燥させたら素焼きして、施釉、本焼成となります。先に述べたとおり線の高さ、角度によっては釉薬がたまり、上から下へまっすぐな線であれば釉が流れますね。こうした釉薬の動きも含めて加飾のバリエーションが豊富です。
法花における堆線文の効果
法花(ほうか)とは中国の明代(15~17世紀)に作られた三彩のことです。三彩とは複数の色釉をかけたもので、法花は青・藍・緑・黄色など多彩な色彩が特徴です。7~10世紀ごろの唐三彩と比較すると、色彩の違いはもとより、法花は釉薬の流れが部分的に抑えられています。
これは法花に施された堆線文のおかげです。たとえば人物をかたどった輪郭線は、盛り上がった堆線文で縁取ってあります。そのため人物の回りに流れた釉薬は、輪郭線によって他所へ流れます。その結果、縁取りした人物は釉が混じり合うことなく鮮明になります。
このように堆線文が防波堤の役割を果たし、釉混ざりを抑える効果もあるのです。さらに器面の立体的な装飾と釉薬の濃淡も表現できます。堆線文は比較的簡単に装飾できるうえ、視覚的・機能的にも優れた陶芸技法といえるでしょう。