越前焼(福井県丹生郡越前町) JR西日本 北陸本線「武生」駅から車
越前焼の歴史
越前焼(えちぜんやき)は平安時代後半から現代まで作られ続けています。平安~室町までは産地名にちなんで「熊谷焼(くまだにやき)」、江戸~昭和前半までは「織田焼(おたやき)」と呼ばれていました。
そして戦後には陶磁学者の小山富士夫により「越前の古窯」と紹介され、中世六古窯に挙げられたことで広く認知されます。次第に越前町にある窯業地として「越前焼」という呼称が定着して現在に至ります。
古窯跡の発掘調査により、まず平安時代には須恵器が焼かれていたことが分かっています。越前で作られた須恵器たちは、古代~中世最大の窯場であった猿投窯の流れをくみます。出土品は甕・壺・すり鉢など基本的な日用品です。
そして鎌倉時代から室町時代には窯が徐々に大型化していきます。その多くは全長15mほどの穴窯が一般的で、やや白っぽい土を使って壺・甕・すり鉢などの日用雑器が作られます。
その作品たちを見れば、高温で固く焼き締まった大壺の表面に、大量の自然釉が流れて美しい景色をなしています。この時期(鎌倉~室町)が最も隆盛を誇った時代で、越前は北陸最大の窯業地として発展しました。
西は島根県から北は北海道までその販路を拡大していました。日本海側で最大規模の流通量をほこる窯業地だったのです。
なお、窯の規模は大きいもので25mに達しており、織田町には40基を超える窯が密集していたことが分かっています。
この時期の大壺の口作りは、外側に反り返る常滑に類似する形のものが数多く作られています。古いものでは平安末期の三筋壺もあることから常滑の影響を色濃く受けていることがわかります。
中世の常滑地域において、三筋壺はトレードマークといえるほど頻繁に作られていました。越前焼もその影響を受け、壺の形は滑らかな肩と小~中サイズの口作りが常滑の作行きと類似しています。
また、室町中~後期には油やお歯黒を入れる小壺が量産されました。これは小壺の口を片口にして中身を注ぎやすくしたものが一般的で、壺の表面には櫛描きや釘彫りの装飾がみられるものがあります。
江戸時代から明治時代になると、耐火度の低い田土が使われます。そして焼き締めではなく施釉陶器が作られるようになりました。
従来の焼き締めの土は耐火度が高く丈夫なものですが、江戸期の施釉ものは比較的耐久性に難があるものが多いといわれます。
時代と共に他窯が茶陶作りなどに転じる一方、越前焼は一貫して壺・甕・すり鉢などを主体に日用品を焼き続けてきました。しかし明治以降は衰退してしまい、戦後は織田町に1軒の窯元しかなくなった時期もあります。
その後、1971年に越前陶芸村ができたことで再興を遂げます。現在は全国から陶芸家が集まり歴史ある一大窯業地として知られるようになりました。越前町周辺で40軒、福井県内では計70軒ほどの窯元が越前焼を作り続けています。
越前焼の特徴
中世に見られるような焼き締めが本来の越前焼です。耐火度が高い土を使っているため1,200℃を超える高温で焼き締めます。その結果、焼きあがりの色は灰色から赤褐色を帯び、黄~緑色の自然釉が勢いよく表面を流れています。
自然釉の景色は頬を流れる涙に見立てられ「涙痕」(るいこん)とも呼ばれます。焼き締まった肌に複雑な色の自然釉が流れる様子は、素朴ながらも力強い越前焼の特徴をよくあらわしています。
越前焼き締めの大壺。グレーの器肌に黄色みを帯びた自然釉がふりかかる。
成形は越前独特のもので捻じ立て(ねじたて)という技法があります。これは大型の壺・甕を作るときに用いられます。「ふね」という丸太の作業台に粘土の底板を固定して紐状の粘土を幾重にも積み上げていきます。円筒状に積み上げたら「はがたな」と呼ばれるコテで表面を慣らします。
この時に作業者は粘土の周囲を時計回りに廻りながらコテで仕上げていくのです。ロクロを回すのではなく作業者自身が一方向に回転しながら作るユニークな成形法として知られます。
捻じ立てで作られた大型の作品はロクロ成形とは違った魅力があります。その形はゆるやかに波打ちながら上方へと力強く伸びていきます。コテで表面を慣らしすぎず紐作りの手作り感が活かされています。
さて越前には施釉陶器もありますが、無釉焼き締めの方がより越前焼らしいといえます。中世からの伝世品を見ると、こうした越前焼の特徴がよくわかります。
古陶を見るには越前陶芸村をお勧めします。敷地内にある福井県陶芸館の収蔵品の中には、越前焼の研究者である水野九右衛門(1921年~1989年)のコレクションも寄贈されています。
水野氏は教鞭を取る一方で越前焼研究の第一人者として知られます。小山富士夫の越前焼研究に協力して、古陶磁の発掘収集や資料の展示、古窯の再現に尽力された人物です。陶芸館内にある販売所は現代作家の作品を多数取り扱っています。
また、敷地内には共同で使う穴窯があるほか、その先には即売所である越前焼の館があります。これら各施設で窯元の地図をもらえるので、気に入った作品があれば問合せてみるとよいでしょう。