釉薬を自作する その3 | 自作釉薬のテスト焼成
テストピースの準備とテスト焼成
自作した釉薬のテスト焼成と検証を行います。テストピースは小型のぐい呑みを作りました。テストの目的は以下の通りです。
- しっかり熔けるか:ガラス質になって素地に溶着するか
- 発色はどうか:理想とする発色・釉調に近いか
- 釉の硬さ・柔らかさ:溶けやすさ、流れやすい釉か否か
- その他…上記以外のトラブルについて
本番ではぐい呑みか茶碗を作りたいので、ぐい呑み型のピースにしました。一般的なのはT字型の立ちピースが多いと思います。最終的に作りたい作品に近い形状が望ましいです。
3つの素焼したテストピースに藁灰釉を施釉します。それぞれ長石・土灰・藁灰の調合を微妙に変えています。結論から言うと失敗しましたので調合は割愛します。なお記事後半で同じ調合で再度チャレンジしています。
電気窯で1,200℃まで温度を上げました。ねらし(=最高温度をキープすること)は実施せず1,200℃になった時点で電源offしました。画像のような有様で3つとも失敗です。
- しっかり熔けるか:不溶
- 発色はどうか:白味を帯びて不溶
- 釉の硬さ:熔けにくい。流れやすいかは判断できず
- その他:釉剥がれが全面に発生
不具合に対する対策
テストの結果、「溶けない」「剥がれる」ことがはっきり分かりました。それぞれ対策を講じていきます。
- 融点を下げる:低火度釉で用いる鉛白(えんぱく)を使用。外割で20%加えて再試験。
- 糊剤を添加:フノリを外割で30%添加する。素地土との密着が高まるのを期待。
%は総重量に対する割合です。釉薬100gだとすれば、鉛白20g、フノリ溶液30ccといった添加量となります。なおフノリは3gの固形フノリを500ccの熱湯で溶き、目の細かいザルで裏ごししたものです。
前回と同様3つのぐい呑み型のピースを素焼きします。こんなに真っ黒な藁灰釉が焼成後に白くなるのは面白いですね。
再テストの結果と考察
焼成温度は前回と同じ内容です。電気窯で1,200℃まで温度が上がったら電源off。ちなみに焼成時間は9時間、電源offから20時間後に取りだしています。
釉薬は左と中央のものは溶けました。右のピースでは釉が溶けきれていませんね。しかし釉の剥がれは起きていません。それぞれ詳細を見ていきます。
・調合:天然長石3:天然土灰4:藁灰3。外割で鉛白20%。フノリ溶液30%
土は大道土7割:三島土3割でブレンドしています。白い藁灰釉のかかった萩焼を目指したのですが、溶けすぎて透明釉になりました。
この温度帯で焼成するならば鉛白の量を減らし、やや溶けにくくすれば白濁すると考えます。発色は理想とはかけ離れていますが、とりあえず熔けて良かったです。あとは調合と焼成温度の微調整となるでしょう。
・調合:天然長石2:天然土灰4:藁灰4。外割で鉛白20%。フノリ溶液30%
土は九州某所でいただいた原土100%です。便宜上「O」という名前を付けている鉄分の多い土です。
土の鉄分のおかげで複雑な色あいになっています。斑唐津をイメージしたのですが朝鮮唐津のようにも見えますね。
それぞれ乳濁した部分と透明になった部分があります。斑点状に釉がかかっていないのは、ブクがはじけた跡だと考えます。よって熔けはしたものの粘りのある釉薬といえます。
なお藁灰の発色は理想に近い状態で、釉もしっかり止まっています。あとは温度を下げるか鉛白を減らせば、白濁部分が増えると期待できそうです。
・調合:天然長石2:天然土灰3:藁灰5。外割で鉛白20%。フノリ溶液30%
土は上記の「O」を100%使っています。釉薬が溶けきれておらず、ブク(表面の気泡のこと)も出来ています。
高温で釉が熔ければブクはなくなりますが、斑点状に素地土がむき出しになるでしょう。あとは釉が厚ければピンホール(クレーター状の穴)もできそうです。
このピースは釉が溶ける直前の状態ともいえます。したがってもう少し温度を上げる、または焼成時間を伸ばせば問題なく溶けるでしょう。全体的に白く発色する雰囲気が分かりますね。
さて、はじめの失敗を元に融点を下げる媒溶剤のほか、素地との密着性を高める糊剤を使いました。今回の試験で使えそうな土と釉の組合せは、「原土O」と「長石2:土灰4:藁灰4+鉛白・フノリ」でした。
実際は3つどの調合でも美しく焼けるポイントは存在するはずです。そして納得いく釉調が得られるまで、何度も検証を続けるか思案のしどころです。
このようにオリジナルの釉薬はトラブルが多く、検証にも時間が必要です。今回は2回で済みましたが何度も失敗することも当然あります。場合によっては諦めるケースも出てくるでしょう。
しかし自分で調達した原料や、試行錯誤して出来た釉薬は大切な糧となります。100%自前で原料調達は難しいと思いますが、一部でも自分で調達した灰や土石を使った作品はまたとない思い出になるでしょう。
あとは出来合いの釉薬にちょっと物足りなさを感じたら、是非チャレンジしてみる事をお薦めします。