赤松が選ばれる理由
陶芸の薪窯で使われる燃料の中で、なぜ赤松が選ばれるのでしょうか。窯の温度を上げるだけならば、一般的に暖炉で使われるナラやカシの薪でも優秀な燃料となります。そこで赤松だけが持つ利点・特性を挙げていきたいと思います。
火力の強さ
赤松には発火性をもつ樹脂が含まれています。たとえば松明(たいまつ)は松材の樹脂が使われますね。この樹脂というオイルが発火性を高めてくれるので火のつきがよく炎が長いのが赤松の特徴となります。
赤松とは逆にナラやカシはなかなか火がつきません。一度火がつけば問題なく燃えますが、窯に投入すると火がつくまで温度を下げてしまうのです。赤松の「火のつきやすさ」これがまず重要です。
また、赤松の火足は1,000℃以上の窯の中では10mを超えます。はじめて登窯を見たときは赤松の火足の長さに唖然としました。これはナラやカシと比べると倍以上の長さになります。そのため赤松には焚口から窯の奥まで十分に届く「炎の長さ」があります。
窯の奥まで火が届くと窯全体が焼かれて温度が上昇します。作品が焼ける仕組は窯の総熱量なので、まず窯全体を焼くことが肝要です。火足が短ければその範囲だけ熱が上がりますが、冷たい場所に熱を奪われてしまいます。
よって火足が長いということは、それだけ火力が強い(=温度上昇に有利)といえます。たとえば焼成室が複数ある登窯では赤松の火足の長さが利点になります。逆に小型の窯では赤松の火力は必要ないとも言えます。
火足をロウソクの火に例えると図のようになります。ロウソクの芯は温度が低く、空気に触れる部分が最も高温になります。つまり小さい窯で火足が長すぎる場合、煙突の方(窯の奥)が最も高温になって無駄が生じます。
燃焼の速さ
前述のとおり赤松は樹脂という発火燃料をつんだ薪です。そのため火がつきやすいだけでなく燃えるスピードも速くなります。量が多ければ当然燃焼スピードも早まります。
樹脂の含有量はもちろん個体差がありますが、より大きな差が出るのは赤松を伐採する季節によります。
赤松は寒冷期に樹脂をたくわえることで生き延びてきました。よって10月~2月頃がそのピークとなるため、冬に伐採された赤松は3~5%もの樹脂を含みます。温暖期にはおおむね2%台に留まります。
冬季に伐採した赤松は半年~1年以上乾燥させてから使用します。ナラやカシは燃焼速度が20%ほど遅いので火持ちはよいです。しかし火付のよさと燃焼スピードから温度を速やかに上げるには赤松が適しています。
つまり赤松は燃費は悪いが高火力といえます。短時間で温度を上げられるのが利点である一方、より多くの燃料を使うのが欠点でもあります。
燠(おき)が少ない
燠(おき)とは薪が燃えた結果、炭の状態で残ったものを指します。燠の炎はくすぶっているため火力は当然弱くなります。少量であれば窯の保温に役立ちますが、掻き出さなければならないほど大量の燠は窯の温度を下げてしまいます。
燠の量は木に含まれる炭素量によります。カシが90%前後の炭素量であるのに対し、赤松は60%ほどの炭素量しかありません。概算でも赤松の場合は約30%も燠が少ないわけです。
ゆえに赤松はカシ・ナラよりも短時間で窯の温度を上昇させ、燠による窯の温度低下をさけることができます。
また、ほとんどが灰になって燃え尽きてくれるため、赤松の灰は自然釉として活かせる点も重要です。たとえば備前焼の胡麻(ごま)や伊賀焼のビードロなど松灰による釉調の美しさも魅力のひとつです。自然釉の色は灰の成分によるため、雑木灰のようにバラつきがないのが利点といえるでしょう。
まとめ:赤松とナラの比較
名称 | 火足 | 燃焼速度 | 燠の量 | 窯の規模 | 総評 |
---|---|---|---|---|---|
赤松 |
10m前後 | 早い | 少ない | 大型 |
低燃費・高火力(短期) |
ナラ |
3~5m | 遅い | 普通 | 小型 |
高燃費・高火力(長期) |
このように利点が多いため赤松は多くの薪窯で使われてきました。しかし火力の強さは万能ではないことが分かります。窯のサイズや焼成条件によっては赤松だけではなく、むしろほかの燃料との組合せも有効といえます。
たとえば幅2m・奥行6mの穴窯で5日間焼成するとしましょう。1日目(序盤)の窯焼きは効率のよい重油、2~4日目(中盤)は温度を上げたいので赤松を使う、5日目(終盤)で火足はいらないので雑木を使うなど。
または2m四方の角窯で2日間焼成するならばどうでしょうか。火おこしに赤松の小割を入れたらあとはナラ薪で火足・火力ともに十分でしょう。赤松100%では火力が強いため逆に難しいのです。そして燠がたまったら赤松を再投入しても良いと思います。
もちろん赤松を使わなくても作品は焼けますが、赤松との使い分けによって窯焚きにバリエーションが加わります。