赤楽茶碗 土選びと型おこし
土壁の要件から楽茶碗の土を選ぶ
安土桃山時代に始まる楽茶碗の土は、聚楽第(じゅらくだい)の近隣で取れた土といわれます。聚楽土とはおもに土壁に塗るための黄土で、楽茶碗にも使われました。
その土があれば有難いのですが、京都の市街地では発掘が困難な状況です。そのため現代の聚楽土は似た成分をブレンドした土で、陶芸に向くか分かりません(耐火度・収縮率など)。
したがって安定供給される市販の陶芸土から探すのが妥当といえるでしょう。今回は楽で使われた土(=聚楽土)の条件を、土壁の要件から選んでいきます。
土壁は塗りやすさと乾燥後の強度が求められます。塗りやすく伸ばしやすい土は粘りがある(=可塑性がある)ことが条件です。これは一般的に求められる陶芸用粘土が該当します。
次に乾燥後の強度について、キメ細かいねっとりした土と、砂気を含むやや粗目の土を比べるとどうでしょうか。キメ細かい土を塗れば壁のまとまりは良いと思います。しかし壁の一部が剥がれると、緻密に一体化した他の壁まで一緒に剥がれてしまう可能性もあります。
それに対して粗目の土であれば適度な隙間ができ、一部が剥がれても他の壁まで一緒に剥がれるのを避けられるはずです。さらに今まで見た土壁を思い返せば、その大部分は砂礫(されき:砂の粒)によって表面がザラついています。よってある程度の砂気を含んだ土が適しているといえます。
そして粘りと強度があるのはもちろん、陶芸作品には耐火度と適度な収縮率(15%程度)が必要です。楽茶碗は短時間(2時間ほど)で焼き上げるため、作品にかかる熱量が非常に高くなります。これも調整済みの陶芸用粘土で条件を満たせます。
土の条件まとめ
- 可塑性:椀形に成形できればよい
- 土の感触:砂気を含んだもの。キメ細かい土は膨れのリスクがある
- 耐火度:短時間で熱量がかけられる耐火度。1,200℃前後が望ましい
- 収縮率:高熱量による膨張・収縮を想定。収縮率15%前後が理想
信楽系の粘土と原土
以上の要件を満たす土として、今回は可塑性・耐火度があり、砂礫(されき)を含む信楽土をベースに土づくりをします。以前テストピースで試験した「J」という原土と、信楽ロット土の組合せを使います。(「J」に関する参考ページ : 原土のテスト3/3:検証)
信楽ロット土がない場合は、信楽系の粗土、酸化焼成で茶色に焼きあがる土を選定します。耐火度と収縮率の確認がとれれば万全ですね。
「J」:原土につけた名前。「ロ」:市販の信楽ロット土。今回は一番左の混合比で使う
市販の信楽ロット土は灰色の粘土です。ここに鉄分の多い原土を30%混ぜて使います。
鉄分のある土を混ぜる理由は2つあります。まず信楽ロット土に変化を加えるため、次に鉄分を添加したいからです。というのも聚楽土を用いた土壁は「地錆」(じさび)と呼ばれる、天然の酸化鉄が表面に染みだしてきます。この鉄分を補うために30%の原土を混ぜてみます。
これで信楽単味の土味に変化が加わり、鉄分の添加で聚楽土に条件が近づくと考えます。土味はさておき、鉄分だけ添加するならば、ロット土に鬼板やベンガラ粉末を数%~10%練り込むとよいでしょう。また鉄分の多い黄土や赤土を化粧土で塗る方法もあります。
テスト焼成用の3椀
今回は茶碗を3椀作っていきます。混ぜ土は信楽ロット7:原土3の割合で計700gの玉を3つ作ります。うち2つは大まかに混ぜたもの(粗め・細かめ)、1つは完全に混ぜたものです。
信楽ロット土7:原土3=ロット土490g:原土210gの計700g
3つのパターンを用意する理由は、それぞれ土味の比較に使うためです。大まかに混ぜるならば叩き板で叩いて混ぜます。2つの玉は原土の粒がまだらに残る状態(1つは粗め、もう1つは細かめ)で試します。
完全に混ぜる場合は、計量した粘土をカラカラに乾燥させます。そして金づちで粉末状にしてフルイにかけます。粉末の状態できれいに混ぜたら加水して完了です。水を含んで間もない場合は可塑性がないので、数日寝かしてから成形します。
これで楽茶碗の土選びが終わりました。作陶から焼成までの手順については、別途まとめさせていただきます。