釘彫り伊羅保 | 伊羅保(いらぼ)茶碗
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釘彫り伊羅保

 

 伊羅保茶碗について

伊羅保(いらぼ)茶碗は高麗茶碗の一種です。高麗茶碗は朝鮮半島で作られた茶碗の総称で、16世紀ごろから日本に持ち込まれています。

 

その中でも伊羅保の渡来はやや後で、17世紀初頭に日本から注文された「注文茶碗」と考えられています。よって当時の日本人の美意識と、使いやすさを反映させた茶碗ともいえるでしょう。

 

伊羅保は鉄分の多い土に鉄釉が薄くかけられています。手触りはザラついた感触で、釉調がイライラした様子から、「伊羅保」と名付けられたという説もあります。

釘彫り伊羅保_茶碗正面

鉄釉は木灰をベースに鉄を加えた簡単な釉であり、鉄分は地場で産出する黄土や含鉄土石を混ぜて得られます。土味は粗目で「石はぜ」と呼ばれる小石の隆起が見られます。こうした豪快な景色と、質素で侘びた風情を併せ持つのが伊羅保の特徴です。

 

なお伊羅保は作行きによって分類されています。釉をかけ分けた「片身替わり」、酸化焼成で黄色味の強い「黄伊羅保」、そして今回紹介する「釘彫り伊羅保」の3つが主なものです。

 

 釘彫り伊羅保の見どころ

さて、釘彫り伊羅保の特徴はその彫模様にあります。ヘラで削った跡が釘彫り模様に見えるのが名の由来です。

釘彫り伊羅保茶碗の高台

彫りは高台内から始まっています。まず中心から畳付きまで渦巻き状のまま高台回りへ。そして腰から胴までぐるりと削られていますね。削り跡をみると粗目の土味が分かると思います。

 

釘彫り伊羅保は、こうした彫の深さと鋭さが見どころとなるでしょう。高台は大きく削り出されており、下に行くと外側に広がる撥高台(ばちこうだい)になっています。

 

撥高台は呉器茶碗(ごきちゃわん:高麗茶碗の一種)に見られる特徴ですが、一部の伊羅保や柿の蔕(かきのへた:これも高麗茶碗の一種)などにも見られます。

 

 見込みと飲み口の景色

茶碗の見込には大きめの「鏡」が見られます。鏡とは見込み中央にある一段くぼんだ部分を指します。ここでは光の当たった円い部分が鏡になりますね。

釘彫り伊羅保茶碗の見込み

鏡は外側から徐々に低くなり、見込みの中心である茶だまりで最も低くなります。したがって抹茶を飲み終えると、少量の茶が中央部にきれいにたまります。

 

このように茶だまりが最も低いことで見栄えが良くなります。これは伊羅保に限らずあらゆる茶碗にいえることです。

 

また、見込には筆置きしたと思われる釉垂れがあります。画像の下側が飲み口、向かって左側が茶碗の正面です。飲み口の側だけ釉が垂れていません。飲み口側は凹凸をなくし茶が流れやすいよう、釉を置かなかったのだと推測します。

 

ちなみに、飲み口を手前にすると画像のように「縦長」の形になりますね。茶を飲み干すと口縁の奥は額にあたりますが、縦長だと広さを感じられるわけです。

 

最後に飲み口側の景色です。ここは茶を飲みやすいように口縁部が最も低く作られています。

釘彫り伊羅保茶碗_飲み口

正面を避けてこの向きにすると、口縁が低くなっていることが分かります。釘彫りや釉流れなどの景色もなく落ち着いた雰囲気です。

 

このように正面とのメリハリをつけています。伊羅保は冒頭で述べたとおり、注文茶碗と考えられています。よって使い勝手などを考慮した作り込みが見てとれます。さりげない作り込みであれば飽きもこないはずです。

 

伊羅保は江戸時代に人気を博し、京都や島根(出雲焼)でたくさんの写しが焼かれたといいます。現代においても茶席でよく見られ、多くの作家や窯元によって作られています。

 

その侘びた風情だけではなく、使い勝手の良さを気に留めて選ぶとよいでしょう。

 

 

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