片口
片口について
片口(かたくち)とは口縁の一部に注ぎ口のついたうつわのことです。口縁部の片側に注ぎ口があることから片口と呼ばれ、鉢や壺のほか大型の甕にも見られる器形です。片口は古いもので縄文土器や弥生土器にも見られる馴染みのある形状です。
一般的な用途は酒などの液体をそそぐ注器、液体を計量して注ぐための計器のほか、普通に食材を盛るうつわとして広く普及しています。作品を見るとその注ぎ口が全体の中でアクセントになっています。
片口を選ぶさいには口の大小・幅・形をみて用途にしたがって選ぶことになります。手取りの良さと釉調などの外観も大切ですが、たとえば食器として使うのであれば口が小さく、「いかにも注器」という感じのない、小振りな注ぎ口がよいでしょう。また、酒器として考えるならば口形と注ぎやすさ、そして何よりも液体のキレが大切です。
食器として片口を選ぶケース
食器として使う場合は、先に述べたように注ぎ口が小さく皿や鉢として使えそうな形状がよいと思います。口縁部を指でやや押しただけのシンプルな造形です。
小鉢として深さも適切なうえ、注ぎ口の造りも口縁部とほぼ並んだ高さです。煮汁などの液体を注いでも高さがあるのでこぼれにくく、正方円なので食材の盛り付け場所に制限がありません。口の造りは尖っていないので、直接口をつけても感触が柔らかく、汁物も最後までいただけます。
見込みには別の作品をかぶせた跡が残っています。伏せ焼の跡もしくはその形状から牡丹餅(ぼたもち)と呼ばれる箇所です。重ね焼きする隙間に藁をかませた焼き跡が残っています。この紐状の跡を火襷(ひだすき)といいますが、緋色の発色がきれいに出ていません。ただ実用のうつわとしては渋めで良いかもしれませんね。
食器として使うさいに小さな注ぎ口は作品のアクセントになります。口縁部にちょっとした変化がついて、普通の小鉢とはまた違った趣があります。色や形は好みですが、注ぎ口の作りが小振りでさりげなく、食材を盛るスペースが十分にあればよいでしょう。
酒器として片口を選ぶケース
液体をそそぐ注器として選ぶ場合は、酒など液体のキレが大切だと考えます。たびたび注ぐわけですから、キレがよくないと酒がうつわから垂れてちょっと困ってしまいますね。
注ぎやすさの要件としては注ぎ口が狭くやや尖った形状がよいでしょう。注ぎやすく液体のキレがほどよいものです。また、注ぎ口の付け根が直線的ではなく膨らみをもったものを選ぶと使い勝手がよいです。
このちょっとした膨らみのおかげで、液体が一気に流れ出ることがなくなります。たとえばお茶をそそぐ急須の口は、付け根に袋状の膨らみがありますね。そのおかげで液体がいったん袋にとどまり少しずつ注がれることになります。
画像をみると注ぎ口の付け根にやや膨らみがあり、液体がたまりやすく作られています。ボディは前後左右の重さが極端に傾くと不安定になりますが、この作品は丁度良いバランスになっています。燗をする場合にもほどよい高さです(約9cm)。
そして上からみるとラグビーボールのような楕円形で手に馴染んで持ちやすいです。こうした器形は酒器にはよいのですが、料理を盛り付けると注ぎ口の大きさや、形状が不自然にみえてしまいますね。
実用的な酒器としての注ぎやすさと置いたときの安定感、注ぐさいの持ちやすさを基準に選べば間違いないでしょう。釉薬をかけない焼き締め作品は酒の味をまろやかにするといわれますが、細部の形状や釉薬の有無は好みで選んでいただければと思います。
中間的な片口
さて、高さもなく注ぎ口が広い片口もあります。こうした形状の片口は煮魚などを盛る食器や、酒をそそぐ浅めの酒器としても使えます。ただしお湯で酒を温める(燗をつける)には高さがないので適しません。
浅めの片口は大きいサイズのものが汎用性が高いです。この作品の口径は25cm、狭いところで22cmほどです。ほどよいサイズの盛り付け皿、そして注器としてもよく使います。注ぎ口側が低く作られていて高さ3.5cm、反対側の口縁部の高さは5cmあります。
V字になった注ぎ口は液体のキレもよく、残されたロクロ目(ロクロの跡で段になっている箇所)は指にかかって持ちやすい一面もあります。見込みも平らで幅があるため料理を盛っても全く問題ありません。
こうした形状はある意味で中途半端ともいえますが、よく言えば何にでも使える便利なうつわとなります。
この作品は朝鮮唐津の片口です。白い藁灰釉と黒い鉄釉の掛け分け、高台回りは釉薬をかけない土見せになっています。土味を楽しみたいならば土見せや焼き締めの作品をお勧めします。
片口はその形状によって様々な用途で使うことができます。そして口縁部の注ぎ口と多種多様な器形で私たちを楽しませてくれます。食器や酒器など普段使いのうつわとして、片口はお薦めの一品といえます。