柿の蔕について
柿の蔕の特徴
柿の蔕(かきのへた)は15~16世紀に朝鮮半島から渡来した高麗茶碗の一種です。抹茶碗として珍重された経緯があり、その形と釉調が特徴です。現代では茶碗のほかぐい呑みや花器などバリエーション豊かですが、「柿の蔕」といえば一般的に椀形のものが該当します。
土をみると砂粒や小石が混ざっています。砂礫は白く細かい粒として景色をなし、飛び出しそうな小石は器面のひびとなって素朴な土味を引き立てています。
釉薬はおそらく土灰釉(雑木の灰+長石)でしょう。釉の薄掛けによって地肌が見えそうな箇所は、土の鉄分が噴き出して茶褐色に発色しています。釉と土の鉄分による侘びた色調、砂気のおおい土味が魅力といえます。
柿の蔕の形は特徴的といえます。腰からゆるやかに立ち上がり、胴の部分でさらに一段角度が変わります。腰から胴まで直線的な作品もありますが、いずれにせよ2段階に立ち上がる点がひとつの特徴といえます。これは著名な伝世品である『毘沙門堂』『大津』などからも見てとれます。
柿の蔕の口縁部
柿の蔕の口縁もまた特徴的といえます。口縁とはふちの部分を指しますが、そこがやや外側に反り返っています。この端反り状の口縁にはヘラで切込みが入っています。
このヘラによる切込みを樋口(といぐち)といいます。家屋にある雨受けの「樋」に由来します。口縁を一回り見ても樋口の角度は一様ではなく、整いすぎず崩れもせずといった趣があります。
この口縁部の切り回しによって、全体が引き締まった印象となります。冒頭の画像でも口縁の雰囲気によって、左半分・右半分を見比べると空気感が変わってきます。
なめし革ではフチが丸まってしまうため、ヘラや切り弓で削ぎ落とします。勢いよく切られた口縁部は口をつけても平らな感触がほどよいです。こうした樋口は柿の蔕のほか、高麗茶碗の一種である伊羅保(いらぼ)茶碗や斗々屋(ととや)茶碗にも見られます。
このように釉調を含めた肌、2段階に立ち上がる形と樋口が柿の蔕の大きな特色です。選んだり鑑賞する際の見どころとなります。
柿の蔕の見込みと高台
柿の蔕は横幅の割には高さがさほどありません。したがって見込みは幅が広く底は浅くなります。
見込みには何カ所か石はぜの跡があります。石はぜとは、焼成しているさいに小石がはぜて(取れて)出来る穴のことです。もちろん水漏れする大きな石はぜは困りますが、問題なく使えるものは石はぜを景色として楽しめます。
中央には渦巻き状の兜巾(ときん)があります。これは簡単にいえば指跡で作る突起のことです。「兜巾がないとダメ!」なんてことは決してないので好みで選べばよいでしょう。
さて、高台は畳付のすぐ外側をやや角度をつけて削っています。ちょっとしたことですが直線的な高台とは雰囲気が変わってきます。
高台内・高台脇はヘラで削った跡が少しだけささくれ立っています。このシワがもっと細かいものを縮緬皺(ちりめんじわ)と呼びます。唐津の縮緬皺が有名ですが、土が粗目で粘りがあるとシワが細かくなる傾向にあります。
よってこの作品のシワは土の粗さによるもので粘り気は少ないと推測します。高台内の兜巾と削りが見どころでしょうか。上からみると干からびた柿の蔕を連想します。
なお、高台については撥高台(ばちこうだい)の作品もあります。これは下に向かうにつれて広がった高台のことで、高麗茶碗の一種・紅葉呉器(もみじごき)が典型的な撥高台です。それに比べると柿の蔕の高台は「わずかに開いてるかな?」という程度の高台がほとんどです。
侘びた風情が魅力の柿の蔕は、地味ながらも使うたびにその味わいを深めていきます。「うつわを育てる」ということを教えてくれる一品です。