伊賀ビードロ(自然釉)
伊賀のぐい呑み
伊賀焼は16世紀後半から現代まで茶陶をはじめ様々な陶器がつくられています。信楽と山ひとつ隔てた三重県の窯業地で、16世紀以前からも窯業自体は行われていた歴史ある産地です。
伊賀焼のひとつの魅力は古来から伝わるビードロ釉があります。これは燃料である薪の灰が降りかかった自然の釉薬(自然釉)とされます。ビードロ(vidro:ポルトガル語)とはガラスの事をいい「硝子」の字が当てられます。
ビードロの美しい緑色は、灰に含まれる微量な鉄分が還元焼成によって得られる色です。つまり灰釉の成分とも合致するため、自然釉のように見せながら施釉する手法(呼び釉:よびぐすり)も古来から行われています。
この作品は現代作家のぐい呑みですが、陽にあてるとビードロの色調がよくわかります。胎土は信楽の土のように長石の粒が白く見られますが、伊賀の土は全体的にしっとりとした土味になっています。選ぶさいには、こうしたきめ細かい土味とビードロの色合いがポイントとなるでしょう。
穴窯による還元焼成で焼かれた肌は、やや暗めの色彩に焼きあがっています。作家本人によれば薪は赤松をメインに雑木も何割か使っているとの事でした。穴窯の中心よりやや手前の灰をかぶりにくい場所で焼いたのでしょう。
これが手前すぎるともっと灰が厚く積もってしまいます。うっすらと灰が積もり高温で熔けながら流れていた様子が見てとれます。このように作品の表と裏ではまるで違う表情を見せてくれます。
窯詰の状態について
穴窯で焼いていますので炎の動きは一方向からです。したがって画像のように倒して窯詰めされていたことが分かります。
天井を向いた箇所には一面に自然釉が見られます。接地面はビードロの釉だまりがトンボの目のように3つ(冒頭の画像)ありますが剥がした跡も見えますね。
このように窯の概要を教えてもらったら、あとは自分なりに釉調からあれこれ考えるのも楽しいです。
糸切り底について
さて、高台については糸切り底の好例なので紹介させていただきます。渦巻き状の模様が残っていますね。
これはロクロを回しながら糸で切り離した跡になります。
- まずロクロを回した状態で両手でピンと糸を張った状態にします。
- 次に回っている作品に張った糸を少しだけ食い込ませます。
- 最後に(例)左手を糸から離して右手で一方向に糸を抜きます。
こうすると切り離した跡が渦巻き状になります。作品によってはその模様をそのままいかして焼成するわけです。ぐい呑み自体は小さいので1cmも食い込ませれば十分だと思います。
焼き締めの肌と手に取った時の底の感触が気に入ってます。ぐい呑みに限らず伊賀の焼き締めは美しいと思います。水に濡らすとよりしっとりとした土味とビードロの色調が楽しめます。