米色青磁 | 二重貫入
米色青磁とは
米色青磁(べいしょくせいじ)は稲穂のような色合いからそう呼ばれます。淡い黄褐色をおびた釉調が美しく、青・緑色に発色する本来の青磁と区別されている場合がほとんどです。
釉薬は青磁と同質、もしくはやや透明性の高い青磁釉が用いられます。青磁釉は植物の灰(または石灰もある)と土石類を調合して作られます。還元焼成することで青・緑色の発色が得られる青磁に対し、米色青磁は酸化焼成で黄褐色に発色します。
ただし酸化状態で焼き続けると、黄色が強くなって淡い黄瀬戸や薄い飴釉のような色合いになります。米色青磁独特の黄褐色に淡い灰色・青色が混ざり合った色彩が損なわれてしまうわけです。
そこで還元状態で焼成したのち、酸素を供給しているケースが多いといえます。還元から酸化へと移行することによって、釉・素地に含まれる微量な鉄分がより深みのある黄褐色に発色します。
米色青磁の釉調
左側は屋内の照明が、右側からは自然光が当たっています。屋内照明では黄褐色の色合いが強まり、自然光では青味がかった灰色がより鮮明になります。
器形は腰から緩やかな曲線を描きながら、口縁間近でさらに一段立ち上がります。口縁は外側に反った端反り型になっています。胴部は天目茶碗ほど直線的ではなく微細な丸みを帯びています。
手に取るとこの丸みによって両手にすんなり馴染みます。口縁はその形状と釉が流れて薄いため口をつけた感触もほどよいです。
釉調は艶やかでありながらも光をうけて多様な色合いを呈しています。これは青磁釉の中にある目に見えないほどの気泡が、光を乱反射させて複雑な色を見せてくれるのです。
また、細かな貫入が全体に見うけられます。貫入の割目にはうっすらと茶がさしています。この赤茶色のひびが涼やかなうつわの表面に温かみをもたらしています。
二重貫入について
見込みをみると光をうけた複雑な色調がよくわかります。口縁を見ると薄造りになっていますが、ここは厚くかけた釉が薄くなる箇所なので、全体的に薄く引かれた作品といえます。
ひび状に入った貫入の中には、多角形の輪郭を持った貫入ができています。このように多重的に生じる貫入を二重貫入(にじゅうかんにゅう)といいます。
拡大すると多層的に様々な形の貫入ができていますね。肌の様子もよくわかります。やや黄色みを帯びた褐色、青味を帯びた灰色、ほんのり赤茶色に発色した割目、全体的に小さな黒い斑点がびっしりと見えます。顕微鏡で使う接眼レンズでみれば気泡も見えます。
前述のとおりこれらの色が気泡と光によって乱反射するので、一見すると表面の色が黄褐色に見えます。仮に気泡がなければ乱反射が起こらずはっきりと色が見えます。逆に気泡のあるおかげで淡い色調になるわけです。
ただこの記事に限った話ではありませんが、便宜上やむなく「青磁は青・緑(黄色もあり)」「米色青磁は黄褐色!」と言い切っています。しかし、実際は一言で表現できないほど複雑な色なのです。
高台回りについて
高台は釉薬をかけない土見せになっています。灰色の胎土は硬く焼き締まり、高台の削りは至ってシンプルです。
自然光をあてると青味を帯びた色彩にもなりますね。畳付きのすぐ脇を角度をつけて削っているのが分かります。高台に過度な装飾がないため、複雑な景色をもつ青磁釉とのバランスが良いです。
また底がしっかり削られているので、手に持った時の重心も心地よいです。底が重すぎると、安定はしますが持った時に底の重さが気になって手取りがよくありません。
底に重心が偏りすぎていないか、たとえば茶碗を選ぶさいのひとつのポイントといえるでしょう。
さて、米色青磁は色彩豊かな釉調と、器面に走る二重貫入が魅力といえます。青磁に近い色、またはより黄褐色の強い色など、光によって多彩な表情をみせてくれます。
器種としては茶碗や鉢、花器や香炉、皿や壺など多岐にわたりますが、青磁のもつ優美な品格を楽しんでみて下さい。