透かし彫り | 蛍手の技法
透かし彫りとは
透かし彫りは器面をくり貫いて装飾する技法です。透かし彫りの作例はきわめて古く、一万年以上前の縄文時代まで遡ります。縄文土器のトレードマークである縄目模様に加え、器面に大胆なくり貫き模様があしらわれています。
軟質の土器であること、そして作品を直接切り取るため、その器体は必然的にもろくなります。よって現存する出土品は透かし彫りの貴重な資料といえるでしょう。
近世以降では江戸時代の備前の釣燈籠(つりとうろう)などの細工物、有田や平戸(現:三川内焼)などの磁器に見られます。陶胎では同じく江戸期の古高取や唐津、京都では乾山の色絵陶器にも透かし彫りが施されています。この時代になると華美で精緻なくり貫き模様を見ることができます。
加工は切りベラのような工具で行われますが、成形直後だと土が動いてしまいます。よって成形後しばらく置いてから、素地が生乾きの状態で透かし彫りが施されたのでしょう。器種は菓子を盛る食籠や菓子鉢、香炉や前述の燈籠などが代表的なものです。
作品は透かし彫りの模様によって、涼やかで洒脱な雰囲気になります。そして実際に使う際は、くり貫き模様から光や食材が見え隠れしますね。視覚的にも美しく、その移ろいを楽しめる装飾といえます。
蛍手とは
蛍手(ほたるで)は透かし彫りをした作品に、透明釉をかけて焼き上げる技法のことです。つまりいったん器面に穴を開けて、釉薬で穴埋めをした状態になります。蛍手は透かし彫りを応用・発展させた技法ともいえます。
光をかざすと透かし彫りのところが部分的に明るく透き通ってみえます。この様子を蛍になぞらえたのが名の由来で、古くは12世紀のペルシア陶器(現:イラン)、15世紀以降の中国(明代)で蛍手の作例を見ることができます。
日本ではやはり有田などの肥前磁器によく見られます。磁器の作品が比較的多いのは、釉薬で穴や線を埋めるため、薄作りしやすい磁土や陶石が素材として有効だったのかもしれません。
さらに磁器は透光性があるため、光を活かす蛍手の技法とマッチします。つまり高温で焼き締める強度、そして光を通す性質によって、磁器と蛍手は相性が良いと思います。
仮に素地が分厚く、そのくり貫き跡が大きいと釉薬で覆いきれません。逆に小さなくり貫き跡であっても、釉薬が流れてしまっては穴が埋まりません。
したがって蛍手作品は小さな穴をあしらい、粘性の高い(=流れにくい)釉薬をかけて焼成されることになります。その多くは透かし彫りを活かせるよう、透明度の高い釉薬をかけています。
こうすることで光をそのまま通しますので、透かし彫りの光と作品の影が美しい対比をなします。
この作例では3サイズの穴が開いていますね。上から大・小・中、さらに小サイズとそれぞれ穴をあけ、まとまった点を斜め・直線で配して採光パターンを増やしています。こうした穴の大きさ・まとまり・角度の組合せが面白いと思います。
蛍手の技法
透かし彫りは素地が生乾きで行う場合もあれば、乾燥させた段階で行う場合もあります。これは透かし彫りの多寡よると考えます。たとえば2~3か所の小さな穴をくり貫くならば、生乾きの状態でも特に問題なさそうです。
しかし画像のようにたくさんの透かし彫りを施す場合、生乾きの状態ではまず無理でしょう。というのも柔らかい素地に緻密な穴をたくさん開けると、土も動きますしまともに作業できないはずです。よってこの蛍手の作品は、乾燥してからドリル状の工具で穴を開けていると推測します。
穴のサイズは0.5mm~2mmの範囲で、それ以上大きくなると釉薬で充填するのが難しくなります。そして透かし彫りをすればするほど素地の強度は下がります。
ただ、磁器であれば1,200℃~1,300℃の高温帯で固く焼き締めます。したがって前述の通り、強度的にも蛍手に適しています。釉薬は流れにくい透明釉で、高温下で熔ける高火度釉を選ぶことになります。透明釉~やや失透性の釉薬が白色系の素地に合います。
このように透かし彫り・蛍手は視覚的に美しく、光を装飾として効果的に取り入れています。加飾の幅が非常に広く、光と影をそのまま活かせる技法といえます。