印花の技法
印花について
印花(いんか)とは型を作品に押して模様をつける技法のことです。模様を彫った小型の「印(スタンプ)」を押す場合と、模様のある「型」を作品に押し付ける場合に大別されます。
スタンプでは小型の模様を連続して押すことができ、型は大きいものであれば作品全体など広範囲に同じ模様を施すことができます。
ここでいう「花」とは「模様」という意味を持ちます。中国発の陶芸技法には「花」のつく技法が多く見られ、たとえば染付をあらわす青花(=青い色で描いた模様)、工具で模様を描く(画く)画花(=描画による模様)、装飾した粘土を貼りつける貼花(ちょうか=貼付による模様)などが挙げられます。
つまり印花であれば「印・スタンプを押すことで得られる模様」という意味になります。中国では新石器時代には使われはじめたと考えられています。その後は、朝鮮半島では7世紀の新羅王朝、日本では12世紀前後の古瀬戸にもよく見られます。このように印花は世界各国で古くから用いられた技法といえます。
印花の技法
印花は作品の成形後、生乾き状態の胎土に型を押し当てて模様をつけます。この作品では花弁のような形のスタンプをいくつも押しています。
スタンプを押して凹んだ部分に白い土をはめ込んで焼成されています。ちなみに別の土をはめ込む技法を象嵌(ぞうがん)といいます。この作品は印花で模様をつけて、象嵌で白土を埋め込んだ技法で作られたといえます。
拡大すると白土を盛った一部に下地の黒が見えていますね。点線の部分にも白土を象嵌してあります。仮に象嵌がなければ黒いうつわで印花の凹凸だけが見える作品になります。
印花の利点はこのような同じ模様を、連続して施せる点にあります。これを手彫りで行うにはかなりの工数・時間が必要になります。さらに花弁の大きさも均一にすることは難しいでしょう。スタンプを用いることで簡単に均一な大きさで連続模様を施すことができます。
さて、このように印花と象嵌を組合せると三島手(みしまで)も出来あがります。この作品は印花と白土の象嵌・刷毛目を組合せています。
スタンプの凹みに白土を象嵌して、全体的に白い化粧土を刷毛で塗っています。素地土は黒っぽい粘土ですね。表面を薄く削ることで輪郭を浮き上がらせているのが分かります。
これを応用するとより広い範囲、たとえば鉢の見込み全体とか、皿の表面全域に印花を施すことも出来ます。上記の例は小さなスタンプで連続模様を押しました。それに対して大きな型を作れば、より広い範囲に同じ模様を施せます。
仮に直径20cmの丸皿を量産するとしましょう。花弁の模様が散りばめられた型を持っていれば、生乾きの丸皿に次々と押していけば同じ模様の丸皿が量産できるわけです。
こうした広範囲に印花を施した例はたくさんあります。中でも中国の定窯における白磁作品は有名な一例です。龍や草花などの型を見込み全体に押した作品など、精緻な模様を持つ大量の作品が出土しています。これらはみな模様が同じなので型押しされたことが分かっています。
小型のスタンプによる連続模様と、大きな型による同じ模様の作品の量産。そして他の技法との組合せで表現・装飾方法はさらに広がります。このように効果的な装飾技法のひとつとして、印花は様々な作品に使われています。