肌打ち | 肌打の陶芸技法
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肌打ちの技法

 

 肌打ちとは

肌打ちは主に鉄釜などの鋳物(いもの)で用いられる技法です。鋳物は砂型に熔けた鉄を流し込んで作りますが、型の内部に肌打ちを施します。仮に砂型の内部がツルツルだと、鋳物の表面(肌)もきれいになりすぎてしまいます。

 

そこで表情をつけるために細かい凹凸を施す技法が肌打ちです。

 

砂型の内部に凹凸をつける材料は川砂・粘土を用います。川砂を素焼きしてフルイにかけ、粘土は乾燥したものを粉末状にすり潰します。これらを5:5の割合で水に熔いて筆で打ち付けていきます。

 

砂目が粗ければ粘土の割合を増やして水分量をおさえます。砂・粘土は乾燥して型の内部にとどまり、その上に重ね置きすることで高低差が生まれます。その結果、型から取り出した作品の表面に細かい起伏ができ、よりやわらかい雰囲気と味わいのある肌になります。

 

その風合いは微細な凹凸によって変化に富み、外観の陰影とザラついた手ざわりが特色となります。天明鋳物(てんみょう)、芦屋(あしや)をはじめ、各地の鋳物には独自の肌打ちによる個性が見てとれます。こうした肌打ちの技法を陶芸作品に応用していきます。

 

 肌打ちの陶芸技法

さて陶芸作品における肌打ちは施釉の段階で行います。「単に釉の重ね塗りでは?」という見方もありますが、肌打ちは『線で重ね塗りする』のではなく『点で積み上げていく』手法になります。

 

たとえば絵を描く場面を想像してみて下さい。水墨画や水彩画は重ね塗りはできますが、油絵のように積み上げることは出来ません。この立体感で作品の表面(=肌)に表情をつけていきます。

肌打ち_施釉の例

肌打ちで使う筆は先が硬く短いものが適していると考えます。筆先は粗いものでもよく、釉薬をつけたら水気をしっかり切ります。釉薬を筆にたっぷり含ませてしまうと、焼成後に釉が流れて不自然な景色になります。

 

水気を切って筆を立て、ザクザクと粗めに施釉します。筆先が粗いと釉が一点に集中しすぎず、適度に散らした状態に施釉できます。釉が乾いたら表情付けしたい箇所に繰り返します。画像の例では表面の上半分は「点を細かく3~4回」肌打ちし、下半分は「点を粗く1~2回」肌打ちしています。

 

具体的には茶碗正面の上半分に細かく4回、口縁部は粗く3回、他面の上半分は細かく3回施釉。正面の下半分に粗く2回、他面の下半分には粗く1回。なお上半分と下半分の境目は、斜め方向に指で釉薬を落としています。この間隔は適当でよく、見た目で分からないほどそっと拭う程度でよいでしょう。

 

 肌打ちの手順と作品

手順をまとめますと、まず通常の施釉をします。次に表情を際立たせたいところに「細かく3~4回(口縁部は適宜)」施釉。強調しないでよいところは「粗く1~2回」施釉。境目をぼかしたいところは適宜ということになります。釉が白いので分かりにくいですが、影の部分をみるとベタ塗りではなく、点で起伏がついています。

 

焼成は備長炭と七輪の窯で焼いています。送風機は鞴(ふいご)という木製のもので、風の強弱を自由に調整できるものです。窯が小さく作品を目視できますので、釉が熔け出したのを確認して釉が流れる前に取り出しています。

 

作品の肌をみると上半分と下半分の違いが何点かあります。上半分はやや起伏が見られ、下半分はほぼ平坦な状態です。

赤楽 肌打ちの例

釉薬の厚い上半分には貫入が入り、釉の薄い下半分は貫入が見られません。また鉄分の多い原土を混ぜているので、一部黒い斑点が出ていますね。上半分は釉の厚みでクレーター状に穴が開いたのに対し、釉の薄い下半分は黒い斑点に穴は開いていません。

 

なお口縁部に肌打ちする理由は、焼成すると釉が流れて薄くなるからです。流れた釉薬はもともと釉のぶ厚いところに溜まるので、上半分だけ見てもグラデーションができることもあります。釉垂れは面によって違いますので、このように作品の上下左右で多様な表情づけができる点がよいと思います。

 

 肌打ちに適した作例

今回の画像は赤楽茶碗の例でした。肌打ちの要件としては「釉の凹凸や起伏による表情づけ」をするかしないかという点にあります。よって全体を均一で平らに仕上げたい作品には適しませんし、凹凸の加飾は必要ないという作例にも合致しません。

 

肌打ちは立体的な変化を出したい作例に適しています。たとえば手びねり作品は指跡の質感など手作り感が魅力ですね。そこに施釉でさらに変化を加えたい場合によいでしょう。

 

また、釉薬は流れにくいものとの相性がよいです。なぜなら灰釉・藁灰釉・織部釉などは、むしろ釉流れで美しさを表現するため、表情づけの方法が根本的に異なるからです。そして釉薬が流れにくい低火度焼成する作品にもいかせます。

 

たとえば今回の例で挙げた楽茶碗のほか、萩・唐津(ともに長石の比率が高いもの)、志野などの施釉陶器。化粧土を肌打ちするならば粉引や無地刷毛目などが思い浮かびます。

 

もちろん高温であればどんな釉薬も流れますが、肌打ちは釉(もしくは化粧土)の立体感で表現する作品に適した技法といえるでしょう。

 

 

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