吹墨の技法
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吹墨の技法

 

 吹墨について

吹墨(ふきずみ)とは、作品に墨を吹き付けたような模様を施す技法です。染付磁器によく見られる技法で、藍色の呉須を器面に吹き付ける装飾が用いられました。ちなみに吹墨の「墨」とは呉須の藍色~黒色を指しています。

 

その手法は呉須を含んだ布を吹き付けて、しぶきをそのまま模様にする場合が代表的なものです。17世紀に中国で焼かれた古染付に始まった装飾法で、飛び散った模様の大小と濃淡で表情が変わります。

 

古染付(こそめつけ)とは、中国の景徳鎮窯(けいとくちんよう)で焼かれた染付のことです。明の時代では末期にあたる天啓年間(1621年~1627年)、崇禎年間(すうてい:1628年~1644年)に作られたといわれます。

 

古染付は日本に数多く伝世し、1620年代に日本人好みの型紙が送られたと推測されます。その古染付の一部に吹墨の作例が見てとれます。

 

そして現代にも吹墨の技法は受け継がれています。口で直接吹いたものは大小入りまじった模様になり、細かく均一なものは霧吹機やスプレーで施されます。

 

また、型紙を使って部分的に白抜きした作例もあります。

 

たとえば真っ白の磁器にウサギの型紙を置いたとしましょう。型紙の上から呉須を吹き付け、型紙を取ればウサギの輪郭で白抜きになりますね。そのあとに目や耳、毛並みを筆で細かく描いていくわけです。なお呉須の藍色は還元炎による発色で、酸化気味に焼かれれば黒色が強くなります。

 

 吹墨の技法:吹き付けのいろいろ

呉須は透明釉の下に施される「下絵」もしくは「釉下彩」です。よってまずは素焼きした作品を用意し、そこに呉須を吹きかけていきます。目を保護するため必ずゴーグルを着用しておきます。

吹墨の例

左のイメージ図では筒状の先に布を巻き付けています。素地が厚く布目が粗いと呉須を吸収しすぎてしまいます。したがって、吹いた時に離れのよい素地が薄いもの、かつ布目が細かいものが適しています。布に呉須を含ませてフッと勢いよく吹き付けます。

 

なお、風圧をかけるには吹き口が小さいものがよいでしょう。吹き口のすぼまったものは風圧が高くなり、呉須が勢いよく飛び散ります。呉須は布に少量含ませ、吹いてしっかり飛散するか確かめます。この形状は昔ながらの霧吹きを参考にしています。

 

右図は目の細かい金網を使った例です。身近なものでは鍋料理のアクを取るすくい網、もしくは網目のザルがあると思います。その一部分に呉須を含ませて網の上から直接吹きます。

 

私はステンレス製のザル(60目)で試しました。ザルに筆で呉須をおいて思い切り吹きます。飛び散り具合を試すには新聞紙がよいです。ザルの目はこれ以上粗いと、しぶきの粒が大きくなりすぎると思います。また、呉須を含ませすぎると吹いてもボタボタ垂れるだけなので、うっすらと湿らせるくらいで丁度良いです。

 

あとは先の不揃いな刷毛でも勢いよく飛び散ります。要件としては刷毛の穂先が「不揃い」・「硬い」ことが挙げられます。たとえば使い古した竹ホウキや茶筅のように、竹で出来ているものが呉須の飛びがいいです。

 

この場合もやはり呉須を少量含ませて直接、もしくはストローで吹きます。または指でトントン叩いてもよし、振って止めた勢いで呉須を飛ばすのもよいです。

 

 噴霧器による吹墨

上記の例ですと、しぶきの模様に勢いがあり、粒の大小など表情がつきやすいです。それに対してコンプレッサーなどの噴霧器を使う作例もあります。これは噴霧器の性能に依存しますが、細かい霧状にできるものであれば、朝モヤのような淡い色合いを出せます。

 

そして均一な塗り模様のため、従来のほとばしるような強さはありません。しかし幻想的なグラデーションを出したい場合、または白抜きの輪郭をきれいに浮き立たせるのに効果的です。

 

型紙については厚紙を切り抜いたものが一般的ですね。注意すべきことは複数の作品で型紙を使いまわす場合です。呉須はほんの少し塗っただけでも発色しますので、型紙の裏面が呉須で汚れたら即交換します。

 

あとは作品を触るさいも手についた呉須は要注意です。ちょっと付いたかな?って程度の指跡でもはっきり発色します。これは手洗いをこまめにするとよいです。

 

さて吹墨の奥深さは模様の大小と呉須の濃淡にあると考えます。他の色釉・顔料では単色でありながら、しぶきの濃淡だけで魅せるのはなかなか難しいかもしれません。

 

いっぽう染付は藍色単色で勝負し、呉須の表情(=藍色の様子)が美しさの基準になります。呉須の表情、すなわち濃淡の良し悪しは作品の評価にも直結します。

 

染付は白と藍色のシンプルな構成ゆえに、藍色の濃淡による表現を深化させたのでしょう。単なるしぶきでさえ濃淡による表情づけが肝となるわけです。このように吹墨の技法は呉須と不可分の関係であり、染付磁器特有の装飾技法といえます。

 

 

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