貼花の技法
貼花とは
貼花(ちょうか)とは陶磁器の表面に、粘土で作った模様を貼りつける技法です。ここでいう「花」とは模様という意味です。たとえばスタンプで模様を施す「印花」、工具で刻んで模様をつける「刻花」(こっか)と同じ意味で「花」が使われています。
貼花は古来から使われた装飾技法で2つのパターンに大別されます。ひとつは手びねりやロクロで作った粘土を貼りつける方法。もうひとつは型で作った粘土を貼りつける方法です。
手作りの粘土は個々の模様を活かせますし、型作りの粘土は同じ模様をいくつも貼ることができます。
たとえば唐の時代における唐三彩や、宋代の龍泉窯(りゅうせんよう)に見られる貼花が代表的な例でしょう。唐三彩は東京国立博物館の「三彩貼花龍耳瓶」が典型的な貼花文の作品です。
また、龍泉窯の青磁は牡丹の花や葉をあしらった「浮き牡丹手」が有名です。貼り付けられた牡丹模様が浮かび上がり、青磁釉の濃淡が出た優美な作品群が伝世します。たとえば静嘉堂文庫美術館にある「青磁牡丹唐草文深鉢」が有名な作例です。
なお我が国でも古瀬戸に見られる貼花の装飾が広く知られています。古瀬戸は中世でただひとつの施釉陶器を焼いた窯業地です。
器面に盛り上がった貼花文に、褐色の飴釉や黄色~緑色の灰釉が流れて美しい景色になっています。貼花文の部分は他と違った色釉をかけたり、あえて施釉しない土見せにするなど様々な趣向が凝らされています。
貼花と別技法との組合せ
さて、この作品はエビの形をした土を貼り付けています。おそらくボディの部分は紐状の粘土を貼り付けてヘラで成形したものでしょう。
手足やヒゲの部分は細い盛り上がりなので、筒から泥を絞り出すイッチンの技法と推測します。このように貼花と別の技法を組合わせて装飾することもできます。たとえばエビの目の部分に鉄絵、ボディの土に化粧土、上絵で手足に加飾しても面白そうですね。
ちなみに貼花で用いる土は、素地粘土である胎土と同質のものが望ましいでしょう。性質が異なれば収縮率・耐火度が変わって、はがれ落ちる可能性があるからです。
土の質感を変えたいならば、胎土の割合を多くして他の土を少量混ぜれば安全です。
そして土を貼り付ける際は、胎土側に工具で筋を彫りこんでから、泥漿(でいしょう:水に熔いた粘土)を塗ると接着がよくなります。接着面の裏側を押さえながら粘土を貼り付け、接着部の隙間をヘラで慣らすと剥がれにくくなります。
隙間を慣らしたあと輪郭を引き締めたい場合は、高台を削るようなV字・またはL字のヘラで接着部の角を立たせてあげれば良いでしょう。灰釉のように流れやすい釉薬であれば濃淡ができてより美しいと思います。
0の状態から模様をヘラで成形するのは時間も手間もかかります。しかし貼花文は短時間で立体的な装飾ができるので、ヘラで彫る・成形する工程を省くことができます。したがって貼花は量産に適した技法といえます。
また、貼り付けた粘土を装飾することで個々の模様に特徴を持たせることも可能です。もちろん過度に装飾すればうるさくなりそうですが、工数の削減と装飾の可能性を広げられる点が魅力といえるでしょう。