掻き落としの技法
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掻き落としの技法

 

 掻き落としの例:鼠志野(ねずみしの)

掻き落とし(かきおとし)とは陶磁器の表面を削り、異なる色を出して模様にする技法です。中国では剔花(てきか)と呼ばれる技法で、「剔」は削ぎ落とすという意味を持ち、「花」は模様をあらわします。

 

一般的に胎土に化粧土をかけて工具で化粧土を掻き落とします。すると胎土がむき出しになった箇所が化粧土と違う色になって際立つのです。

 

たとえば白く発色する素地土を使ったとしましょう。その上に黒化粧土をかけて表面を削ると、素地土である胎土の白色があらわれます。仮に正三角形に化粧土を掻き落とせば、黒色の作品に白い正三角形の模様ができるわけです。

 

掻き落としの代表的な例は鼠志野(ねずみしの)が挙げられます。桃山時代に美濃で作られた鼠志野は、掻き落としの技法を説明するのに適しています。現代もたくさん作られているので、身近な掻き落としの例として分かりやすいと思います。
掻き落としの例(鼠志野)
この作品の胎土は白土ですが、そこに鉄絵・鉄釉の材料である鬼板(おにいた)を塗ります。ここで焼けばただの黒い碗になるはずですが、鬼板を植物の模様に描き落としています。

 

その上に長石からなる志野釉をかけて焼成しています。掻き落とされた場所はその上に白く発色する長石釉がかけてあります。したがって植物模様は志野釉の白に発色、鬼板(黒)と志野釉(白)が混ざった部分は鼠色に発色します。

 

 掻き落としの技法

さて鼠志野の例では掻き落としのあと釉薬をかけて焼成しました。次の例はもっとシンプルで、鉄釉をかけたあと釉を掻き落として焼成されています。ベースが鉄釉なので志野釉をかけたら鼠志野みたくなるかもしれません。

掻き落としの例2(鉄釉掻き落とし)

掻き落とされた箇所は胎土の色が出て灰色になっています。削りあとが細く素朴な線描ですね。このように胎土・釉(または化粧土など)の二層になったところを削ると下地の色が模様になります。

 

これらの例の通り、化粧土や釉薬は胎土と色の対比ができるものがよく使われています。釉薬はテスト焼成して問題が無いか確認します。化粧土については数パターンの割合(例えば胎土5:化粧土5、胎土3:化粧土7など)で調合してテスト焼成するのが望ましいです。剥がれやすいものは胎土を何割か混ぜると良いでしょう。

 

しかし胎土が黒色系で化粧土が白色系の場合は困ってしまいますね。せっかく白化粧をしたいのに、胎土を混ぜると黒味が強まってしまうからです。こうしたケースでは胎土・化粧土ともに白土を用いて、胎土側に鉄分(鬼板など)を1~2割添加すれば良いでしょう。

 

胎土と化粧土の性質が近ければ耐火度・収縮率もさほど変わりません。そのおかげで焼成中の割れや収縮による剥がれが低減されるはずです。掻き落としで表現したい色を決めること、胎土と化粧土の性質を近づけること、この二点が肝要です。

 

 掻き落とし技法のバリエーション

掻き落としは技法の組合せが何通りもあります。そもそも掻き落としは「化粧土」との組合せでしたね。さらに掻き落とした模様に別の土を埋め込む「象嵌」(ぞうがん)。これは三島手などの作品に多くみられる組合せです。

 

または複数の色粘土を混ぜた「練上げ」の土に化粧土をかけて掻き落とせば、下地のマーブル模様が面白いかもしれません。掻き落とす範囲を広くすれば下地がより見えるようになります。

 

なお胎土・白化粧・黒化粧など三層以上の化粧がけをしてるケースもあります。これは中国の磁州窯(じしゅうよう)に見られる掻き落としの例です。まず胎土に白化粧をします。次に模様(たとえば牡丹など)を描きたい部分に黒化粧をします。そして牡丹の形に掻き落とすと、輪郭は白で花弁は黒い牡丹の花が描けますね。

 

その他にも、たとえば九州の小石原や小鹿田などで見られる、飛び鉋(とびかんな)も掻き落としの一例です。黒い胎土に白化粧をかけ、鉄製の工具で連続した削り跡を施します。すると削った跡は下地の黒色が出てきますので、白化粧と黒い模様の対比が見てとれます。

 

このように別技法との組合せや化粧土の塗り分けなど、掻き落としの技法はシンプルゆえに奥が深いです。多種多様な作品に使われているので、鑑賞や作陶のさいに気に留めておくと面白いかもしれません。

 

 

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