陶芸作品 | 左右非対称の美しさ
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陶芸作品における左右非対称の美

 

 なぜ不完全なものに魅力を感じるのか

陶芸作品を眺めていると、均衡の取れていない作品に親しみを覚えることがあります。たとえば志野や織部の造形に見られるような歪み(形)、唐津焼の奔放な鉄絵のモチーフ(色・形)、備前焼の表面に降りかかった不均一な灰の様子や窯変(色)など。

志野茶碗_銘:振袖

志野茶碗。銘:振袖(桃山時代)画像提供:東京国立博物館:東京国立博物館ホームページ

 

このような不完全な形状や意匠、微細な表情に惹かれるのはなぜなのでしょうか。

 

それは一様でない造形と微細な変化を美しいと感じるからだと思います。仮に左右が完全に対称で、写実画のように精緻な絵付け、作品の器面に何も変化が無かったらどうでしょうか。

 

私であればその完璧な姿形にきっと驚くはずです。しかし親しみを感じたり、しみじみと美しいと感じることはおそらくないでしょう。近寄りがたい完璧さに圧倒されることはあっても、身近に置いておきたいという親近感は芽生えないはずです。

 

逆に不完全で不均衡、変化に富んだ作品には親近感があります。柔和な形には機械で作ったような冷たさはなく、人が作った温かみをたたえているではありませんか。それは自然の景色にもいえるような親しみと美しさにつながります。

 

たとえば空を見上げて雲を見たとしましょう。その雲の自然な様子(形・色)を美しいと感じることはないでしょうか。均衡の取れていない自然のままの美しさといえます。

唐津にて

また、海岸の稜線や打ち寄せる不規則な波の姿(形・色)に時を忘れることもあります。左右非対称の山の端(形)や、芽吹いた木々が織りなす色とりどりの景色(色・形)に感動することもあります。

 

日本人には元来このような感性があるといわれます。自然界における形と色の変化を愛でてきた歴史があります。

 

つまり不完全な造形やアンバランスさに自然の光景を重ね、その変化を楽しみながら美しさを見出してきました。陶磁器においても同様、こうした要素(不完全さと自然さ)は数多くの伝世品に見られる特徴といえます。

 

 伝世品における左右非対称の美しさ

数百年~1万年以上前から伝世する作品には、左右非対称のものが数多く見受けられます。

 

たとえば手なりに作られた縄文土器や弥生土器における左右非対称の造形。端正なロクロ引きで作られた須恵器においても、不規則に垂れかかる自然釉の流れや、装飾である鳥獣の形は多岐にわたりバリエーションが豊富です。

 

奈良三彩の均衡が取れた造形のなかにも、鉛釉で彩られた緑・黄色の斑文は多様な形状と色彩を見せてくれます。須恵器同様、大陸陶磁の影響を受けながらも日本独自の美意識を反映させています。

 

また中世の焼き締め陶の造形、降りかかる自然釉の一様でない景色、古瀬戸の飴釉や緑釉の不規則な釉流れにも趣があるといえます。桃山陶のダイナミックな造形と意匠(瀬戸黒・織部・志野など)、黄瀬戸のおとなしい器形にも緑の胆礬(たんぱん)をあしらい装飾的・視覚的にも均衡を崩していますね。

 

そして伝世品の割れを補修した金継ぎや銀継ぎの跡。割目をなぞった金銀の色彩が、左右非対称の装飾となって絶妙な味わいをもたらしています。

 

こうした左右非対称のことをアシンメトリー(asymmetry )といいます。ちなみに左右対称であることをシンメトリー(symmetry)と呼びます。作品鑑賞や作陶の際にひとつのキーワードとなることでしょう。

 

 陶芸作品に見る陰と陽

さて私たち日本人が美しいと感じる「不完全なさま」「自然な形・色」と「左右非対称(アシンメトリー)」の作例について述べてきました。左右非対称をさらに掘り下げると、作品における「対比」すなわち陰と陽という見方もあります。

 

織部州浜形手鉢(桃山時代)。画像提供:東京国立博物館:東京国立博物館ホームページ

織部州浜形手鉢

これは手鉢を上からみた画像です。型物であるにも関わらず左右非対称で、微妙に中心をずらしていますね。そして「曲線」の器形に対比させて、絵付は「直線」で描いています。陰と陽の対比を生み出しています。

 

このような対比は織部に限らず身のまわりの作品でも見ることが出来ます。

 

たとえば向付の手前と奥。手前は食べ物を取りやすいよう「低く」、奥は見栄えが良いように「高く」する。高低の対比ということになります。

 

皿に和菓子を盛り付ける場合を考えてみます。まん丸の饅頭(まんじゅう)であれば角張った器が似合い、四角く切ったようかんであれば楕円の皿が合います。うつわと盛り付ける素材の形(角・円)の対比です。

 

またはある色絵茶碗の正面と裏面を見てみましょう。正面から見ると華やかな色絵(花や月など)が美しい構成ですが、裏面から見ると寂寥とした景色(草むらのみ)になります。正面・裏面それぞれ雰囲気の対比といえます。

 

このような陰・陽の対比は「直線・曲線」「高さ・低さ」「華やか・地味」などさまざまです。意識してみればもっとたくさんの対比が見つかるでしょう。

 

まず直線・曲線の形や高低はうつわの使い勝手に関係する要素です。またお客様をもてなすには、華やかなうつわの正面を向けるのが一般的ですね。

 

見た目の変化によってメリハリが出るだけではなく、実用性すなわち用の美にもつながる興味深いテーマです。

 

不完全なものの自然な美しさ、左右非対称の美意識、陰と陽の対比など。作品を鑑賞するさいに意識してみると面白いと思います。普段見慣れた作品が、今までとはちょっと違って見えてくるはずです。

 

 

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