透明釉
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透明釉

 

 透明釉について

釉薬の性質・外観の区分のひとつに透明釉があります。これは光沢のある透明無色の釉薬を指します。

 

たとえば染付に用いられる石灰釉や灰釉(高火度釉:1,200℃前後で熔ける)や、唐三彩(とうさんさい)のような鉛釉(低火度釉:800℃前後で熔ける)が代表的な透明釉です。

 

素地の色や化粧土の色をそのまま反映するため、下地の色をそのまま活かすことができます。

透明釉の外観

この透明釉は素地である白をそのまま活かしています。釉薬のかかっている部分とかかっていない部分がわかります。なお釉だまりは窯の炎で黒ずんでいますね。

 

透明度が高い理由は発色する物質(たとえば酸化鉄や酸化銅、酸化コバルトなど)がほぼ含まれていないためです。

 

ただし天然素材を使う灰釉においては、100%透明なものはほぼありません。しかし光沢があって透明度が高いものを、透明釉と呼び慣わしている場合がほとんどです。

 

よって素地や化粧土など、下地の色が透けてほぼ同色であれば「その釉薬は透明釉」という認識でよいでしょう。イメージとしては身近にある透明なガラスを思い浮かべてもらえば分かりやすいです。

 

 透明釉の作り方

透明度を上げるためには、着色剤である微量な鉄や銅が含まれていないことが条件です。したがって、天然の草木灰など成分にバラつきのある原料は使わない方が無難といえます。

 

そこで石灰+長石(または陶石)の調合がもっとも簡易的に透明釉が得られます。それぞれの役割は石灰が「強力に熔かす」役割、長石(または陶石)が「熔かす・素地に接着・ガラスになる」役割を担います。

 

これは一般的に見られる透明釉の調合ですが、およそ長石7:石灰3(または長石7:石灰2:白色粘土1)の割合で透明釉になります。多少割合が前後しても透明度は保たれます。

 

ただし長石が5割を切る場合は、熔けて流れすぎるため釉薬として扱いにくいと考えます。長石の最小量は5割にとどめておくとよいでしょう。

 

また石灰を増やしすぎても釉が流れすぎてしまいます。よって石灰の割合は1~2割が無難、多くても3割にとどめておくとよいです。

 

 原料の調整例

石灰は増やしても無難なところで2割、長石を減らしても5割という計算になります。では残りの3割は何を加えるのがよいでしょうか?

 

ここで素地に接着させる作用を持つカオリン(白色粘土)1割と、ガラスの素になる珪石2割を加えます。珪石を2割加えると耐火度が上がりますが、カオリンの接着する作用で安定します。つまり長石5:石灰2:カオリン1:珪石2という調合例になります。

 

これで釉流れが起きた場合、石灰を減らしてカオリンを増やします(=長石5:石灰1:カオリン2:珪石2)。カオリンで白濁してしまう場合には、カオリンを減らして、珪石または長石を増やします。(長石5:石灰1:カオリン1:珪石3)または(長石6:石灰1:カオリン1:珪石2)

 

こうした微調整をする理由は、市販の長石や陶石、珪石などにおいても微妙な成分の違いがあるからです。工数はかかりますが、作品に適した釉薬に調整していただければと思います。

 

 透明釉:高火度釉の調合例

  • ○長石10…白く不透明な釉薬(失透釉)になる。厚塗りする志野釉がこれに該当する。
  • △長石8:石灰2…透明度が高くある程度流れる釉薬。
  • ◎長石7:石灰1:カオリン1:珪石1…「熔かす」「接着」「ガラス」のバランスが取れた透明釉。
  • ◎長石5:石灰1:カオリン1:珪石3…同上。バランスが取れた透明釉。
  • ◎長石6:土灰3:藁灰1…灰立ての透明釉(土灰釉)。土灰の微量鉄分で薄黄色に発色(酸化焼成)。
  • ×長石5:石灰5…透明度は高いが、溶けすぎてかなり流れてしまう。

上の5タイプであれば1,200~1,300℃で熔ける釉薬となります。最後の石灰5のパターンでは実用的に厳しいと考えます。

 

 耐火度を上げたい場合・下げたい場合はどうするか?

  • 耐火度を上げる:石灰「熔かす」を減らして、長石・カオリン・珪石「熔かす・接着・ガラス」を増やす。
  • 耐火度を下げる:上記の逆で、石灰を増やし、長石・カオリン・珪石の割合を減らす。

透明釉に限らず理論上はこのようになります。石灰のように熔かす働きを持つものは塩基性(えんきせい≒アルカリ性)の原料です。生石灰や草木灰には酸化カルシウム(CaO)が含まれます。この酸化カルシウムが釉薬自体を熔かすわけです。

 

石灰石や草木灰のほか、塩基性の釉原料には炭酸バリウム、鉛化合物、亜鉛華(あえんか=酸化亜鉛)、鉛を含む有鉛フリット(ガラス粉)、酸化チタン、マグネサイト、タルク(滑石:かっせき)などが挙げられます。これらはみな媒溶剤として使われています。

 

 透明釉:低火度釉の調合例

一般的な低火度釉には冒頭で述べた鉛釉(えんゆう・なまりゆう)があります。鉛を媒溶剤にした歴史の古い釉薬で、紀元前5世紀ごろの中国から使われはじめ、現代でも広く認知された釉薬といえるでしょう。

 

釉薬に鉛を混ぜることで、融点が下がって熔けやすくなります。また鉛釉はどんな素地とも相性がよく、色釉として用いても発色が美しいです。

 

さらに調合が簡単なのも魅力で、鉛と珪酸(けいさん:珪石などに含まれる)で釉薬が成り立ちます。ただし鉛は酢酸に溶けやすく人体に有害です。よってリンゴや酢の物を入れる容器など、一部の飲食用陶磁器で規制されていますね。

 

さて鉛化合物である鉛白(えんぱく=唐の土=白鉛)と、ガラスの素になる珪石やフリット(=ガラス粉=白玉。これは鉛丹や珪石、硼砂を焼いた粉)を混ぜると透明釉が得られます。

  • 鉛白8:有鉛フリット1:珪石1…弱釉。700℃前後で熔ける透明釉。
  • 鉛白6:有鉛フリット2:珪石2…中釉。800~900℃で熔ける透明釉。
  • 鉛白5:有鉛フリット2:珪石3…強釉。1,000℃くらいで熔ける透明釉。

この画像は信楽系の粘土に鉛釉をかけたものです。茶色に焼きあがる土色に透明釉がかけられています。

鉛釉_透明釉

表面にツヤと光沢がありますね。褐色の粒は粘土の鉄分、白い粒は粘土に含まれる長石でしょう。釉薬自体は透明のガラス質になって表面を覆います。

 

なお耐火度を上げるには、媒溶剤である鉛白・有鉛フリットを減らして珪石を増加させます。耐火度を下げるにはこの逆でよいでしょう。炎に弱い(=溶けやすい)ものを弱釉、溶けにくいものを強釉といいます。

 

 透明釉の汎用性

さて、こうした透明釉はさまざまな作例で見ることが出来ます。下地の色を活かすということは、呉須や鉄絵などの絵付とも相性がよいです。

 

たとえば染付磁器の呉須であれば、透明釉のおかげで藍色の呉須が美しく映えます(還元焼成)。

 

また、絵唐津の鉄絵では、灰仕立ての透明釉がよく使われます。黒い鉄絵の発色を妨げず灰に含まれる微量な鉄分でうっすら琵琶色に焼けた作品もありますね。

 

そして織部に見られる鉄絵にも、絵付けの部分は透明釉がかけられています。緑の織部釉では鉄絵の黒が目立たないですね。そこで素地の白土に鉄絵を描いたところは、透明釉をかけて絵を引き立てています。

 

このように透明釉の用途は幅広いものです。さらに透明釉に着色剤(鉄・銅など)を加えることで多彩な色釉になります。汎用性の高い釉薬のひとつといえます。

 

 

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