筆洗形 | ひっせんがた
筆洗形について
筆洗(ひっせん・ふであらい)とは絵具のついた毛筆を洗う器のことです。筆を水ですすいだあと、水を切り穂先を整えるための切込みが入った文房具です。
この筆洗を食器の形に取り入れたものが筆洗形のうつわです。主に茶碗や鉢などの飲食器に見られる形で、口縁部に切込みが入っています。
左のイメージ図の赤丸部分がその切込みです。この例では切込みは二か所ですね。切込みによって一段低くなった口縁は、もう一方の切込みまでゆるやかに高くなっていきます。
このような装飾はおとなしめの器形であっても、口縁部に動きが出てきます。ちょっとした口縁部の変化で器形に動きが出て、なだらかに高くなっていくため自然な意匠として活かせるでしょう。
ただし、抹茶椀であれば飲み口が斜めになる可能性もあります。極端に斜めの飲み口では使い勝手が悪いため、飲み口と思しき数箇所を水平に慣らしている作品もありますね。
次に右の図では切込みが四か所入っています。赤線であらわした口縁は、一段下がって水平のままとなります。
右図のような作例では、青線であらわした辺は短く、赤線の辺が長いものをよく見かけます。というのも一段下がった辺が短いと、単に凹んだように見えてバランスがよくありません。
そこで下がった辺(赤線部)を長く取り、全体的な見栄えが良い構図にしているのでしょう。真上から見ると真円ではなく、楕円形や沓形になっている作例が多いです。
筆洗形の作例
さて筆洗形のイメージとしては、図のような茶碗が分かりやすいと思います。実際の作例を挙げるならば、高麗茶碗の伝世品に筆洗形をみることができます。
たとえば畠山記念館にある割高台茶碗は、口縁に切込みの入った筆洗形です。まず割高台に目が行きますが、釉調・貫入やひび割れのほか、筆洗形特有の切込みによって躍動感あふれる名椀といえます。
または五島美術館所蔵の、釘彫伊羅保茶碗「苔清水」ならばどうでしょうか。器面を走る力強い釘彫りと高台が印象的ですが、口縁部の二か所には斜めの切込みがさりげなく入っています。
こうした作例のほか、萩や信楽、伊賀などの茶碗においても筆洗形は見受けられます。江戸時代の無銘の古萩にも見られますが、たとえば現代の萩でも11代三輪休雪(壽雪)の鬼萩割高台の中にも筆洗形の口縁を持つものがあります。
筆洗形はこのように口縁部の特徴ともいえます。作品全体におけるひとつのアクセントとして楽しめます。鑑賞はもとより、手に取って作品を選ぶさい気に留めてみるとよいでしょう。